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2018年9月23日日曜日

百合ジャンルの歴史 個別作品紹介その3 あるいはかえみと論考

本編はこちら
個別紹介その1はこちら

・Vtuber(17末、にじさんじ18)
というより実質にじさんじ、もっと言えばかえみと。
現状pixivで圧倒的に強いのはこの二人です。
おそらくtwitterでも。

そもそもVtuber、バーチャルユーチューバーとは何ぞや。
現在進行系の現象なので色々と論じ方はあると思いますが、
結論から言えば2Dあるいは3Dのアバターを着てる配信者です。

ただ彼らの多くがYoutubeを活動拠点としているので、
Youtuberの一種とみなされる事が多いのですが、
実はそれ以外の場、例えばtwitterとかでも活動しているので
「配信者」と定義してみました。

実際の所、元々有名人だったり、イラストレーターだったり、
ミュージシャンだったりといった背景を持つ事なく、
発言が面白かったり、考察が鋭かったり、行動が奇矯だったりと、
twitter上の活動だけで有名になったアカウントが結構いるのですが、
(アルファツイッタラーなんて言い回しもあります)
そんなSNSだけで有名になれるような元々面白い人々が、
アバターを獲得して大ブレイクしたのがVtuberだと私は認識しています。
少なくともヒットしているVtuberに関しては。

で、ここからが本題。
SNSにおけるアカウント同士の間柄に百合が見出されたのは、
実はVtuberが最初ではなかったりします。

艦隊これくしょんのなりきりアカウント同士(二人とも女性キャラ)で、
思いを打ち明け、受け入れられたという出来事がありました。
結構少なくない人々の記憶に残っている彼女達は、
その後アカウントを消してしまい、アーカイブも残さなかったので、
アルペジオのように電子の海に去っていってしまったのですが。

もう彼女達の名前を使っても検索すらできなくなった二人の間柄には、
確かに百合へと繋がるものがあった筈です。
そこには原作への愛があって、
現在進行系で進展していた間柄があり、
その進展を共有していた人々がいました。

それから数年経って。
最初に月ノ美兎がその強烈な中身でブレイク。
その後彼女が築いた橋頭堡から、
Vtuberグループ「にじさんじ」が世に出てきます。
で、月ノ美兎自身もその一員として動画配信でコラボもしているのですが。

始まりがいつだったのかは分かりません。
元々仲が良かったのか、配信中に気が合ったのかも。
しかしいつの間にか月ノ美兎と樋口楓は一番の仲良しさんになり、
この二人で何かする時が最も盛り上がるようになりました。

Vtuberというガワがあるのでわかりにくくはあるのですが、
面白い人達が一人、二人、ないし多人数で愉快な事をして
(バカな事、と言ってもいいかもしれません。勿論褒め言葉)
彼ら自身も視聴者も一緒に楽しんでいるのが流行りの本質です。

で、バーチャルに限った話でもなく。
二人でいっぱい楽しい事をすれば仲良しにもなるよね。

そんな訳で、まあ何というか色々と愉快なコトをしつつ
少女(とあえて書きます)二人がリアルタイムで接近していくのを、
視聴者は現在進行系で共有する事になりました。
というか今この瞬間にしてます。

SNS上で…というのはそんなに重要ではないのですが、
二人の間柄が進展していくのを共有する経験は、
おそらく多くの視聴者にとって非常に新鮮なものでした。

バーチャルキャラ同士なのに
間柄の進展はリアルよりもリアルという
何とも奇々怪々な現象がそこにはあります。

更に、かえみとのような類型が
百合ジャンルにおいて大当たりした組み合わせには無かったのも
百合ファンにとっての新しさがあったのだと思います。

ざっくりと切り分けてしまうと、かえみとって、
ワトソンとホームズの間柄に似てるんですが。
こういう類型の組み合わせって、
そういえば大きいジャンルには無かったように思えます。
ちなみにハドソン夫人が静凛で、
モリアーティ教授は…誰だろう?

親友…ともちょっと違う、
不均衡のあるバディというか、戦友というか。
(何でもサイドキックという呼び名があるんだそうです)
ワトソンだけでは大人気シリーズにはならなかったのでしょうが、
しかしホームズはワトソンがいないと始まらない、
かえみともそんな間柄に思えます。

で、再び論を引き戻して。
Vtuberの本質はガワを被った元々面白い人々と書きました。
しかし彼らは、活動を止めてしまうと急速に忘れ去られてしまう
どうにも避けがたい宿命を背負った存在でもあります。
良くも悪くも刹那において最も輝けるのが人気アカウントであり、
Vtuberもその延長線にあります。

ずっとずっと二人では走れない。
どこかで必ず終わりが来ます。

仮ににじさんじが活動停止後にアーカイブを残しても、
(多分残さないと思います)
我々に出来るのは追体験だけで、
二人が接近していく刹那は共有できない。

SNS上での間柄の進展、そこにあるときめきは、
現在進行系である事が生命線です。
過去形になってしまうと後世への伝達が極めて困難になるでしょう。
実際に検索すらできなくなったケースを私は紹介しました。

イラストとか小説とか薄い本とかの二次創作は残る筈。
しかしそこから当時の熱をどれだけサルベージできるのか。

ときめきは今そこにあります。
しかし後に残せるのか。
そもそも無くなってしまった刹那を残す必要があるのか。

後になって残るのは、
写真…もとい二次創作だけ、という事になるかもしれません。
ジャンルの栄枯盛衰はどこにも例外なくあるのですが、
Vtuberはそれが極端に激しくなる予感が、実の所すごくします。

例えば10年後、今の事情を知らない人々に、
どう説明すればいいんだろうなぁ。

もし、後に伝えたいのならば。
今から何か方法を考える必要はあるでしょう。
とても大変でしょうけれど…

2018年9月10日月曜日

百合ジャンルの歴史 個別作品紹介その2

本編はこちら
個別紹介その1はこちら

・魔法少女まどか☆マギカ(11)
脚本の名前で皆嫌な予感はしていましたが、
実際キャラデザで釣られた視聴者を地獄に叩き落とした、
残酷な運命に5人の少女(劇場版で+1)が立ち向かう物語。
切実な願いを悪意に踏みにじられながら、
あがき続ける少女達。
そして主人公が最後に出した答えは…

強引な掴みが最初に話題になりましたが、
物語の全貌が少しづつ見え始め、
オープニングが誰の言葉なのかわかった時の感覚は、
おそらく実際に視聴しないと分からないかと。

…それまで主人公は 「お前何の為に存在してるん」と思われてたりしていました。
最終話までには皆がごめんなさいしたけれど。

百合ジャンルの中でも
これほどむき出しの生死が牙を剥いてくる作品は珍しく、
それ故に少女同士の絆も印象的。
なお作中でカタストロフが起きる前に現実世界で大災害が起きてしまい
最終回の放映がしばし自粛されたりも。

このアニメの外伝にあたるスマホゲーム
『マギアレコード』も2019年のアニメ化が決定。
こちらは(百合ファンも含めて)比較的狭く深くで突き刺さっていたのですが、
さて、アニメ化でどうなるやら。

・ガールズ&パンツァー(13)(劇場版15)
廃校の危機を迎えた学校が
ある競技の強豪から転校してきた主人公を中心とし、
学校存続の為に全国大会制覇を目指す物語。

ただしその競技は実弾の飛び交う戦車軍団同士の戦闘。

これだけ見ると何が何だか分からないでしょうが、
濃いミリタリーネタを挟みつつも、
最初は自身の境遇に戸惑っていた主人公が多くの仲間達に支えられ、
自らの意志で競技に戻っていく実に王道な物語です。

大怪我とかは無いよ?
いや、本当に無いですって。

こちらも最終回放映までにすったもんだがありましたが無事完結。
更に劇場版も上映され、これが素晴らしい出来で大ブレイク。
特に女性ファンは劇場版から入った者も多い模様です。

…あるキャラが劇場版以降、急に注目され始め、
二次創作で色々と変な属性を付けられたり。
舞台となった大洗町に多数のファンが詰めかけ、
彼の地の魅力が再評価され、経済が大いに潤ったりと、
場外で色々な現象が起きた作品でもあります。

元々大洗町が観光地として魅力的だった事もあって、
アニメによる「聖地巡礼」が注目されるきっかけともなりました。

2018年現在、完結編が制作されている模様。
どうなるかな。

・THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS(11)(アニメ15)
通称デレマス。二次元アイドルブームの火付け役、
アイドルマスターシリーズを下敷きにしたスマホゲーム。
一つの世界観に無数の女性キャラを登場させて大当たりした、
おそらく二つ目のジャンルです。
(一つ目は東方で三つ目は艦これ)

プレイヤー=主人公のプロデューサーはほぼ男性と思われていますが、
百合ファンはそんなもの知った事かと言わんばかりに
アイドルであるキャラ同士の組み合わせを無数に見つけていきました。

元祖の人気もあって元々隠然たる勢力がありましたが、
火がついたのはアニメ以降。
(ハーフの彼女が普通に日本語喋った事があったのは黒歴史になったとか)
プレイヤーが想像もしていなかった組み合わせも数多く提示され、
2018年現在でも熱い人気を見せています。

私的にアイドル達に関われなくもないが、
まずそんな事しなさそうなアニメの男性Pの味付けも絶妙でした。
おかげで百合も×男性Pも捗ったのだそうで。

…一方、現在深刻な社会問題になりつつある
ゲームへの想像を絶する課金が発生し始めたのもこの作品。
あったなぁ、課金兵なんて言葉。
言葉は見なくなっても現象が更に過激化するなんて…

そして、2~30代の女性に声をかけ、
アイドルとして大成させる事が可能なゲームだったりもします。
おそらく多数のキャラを出すにあたって、ありとあらゆる特性を試す中で 
(プレイヤーにとって)年上のおねーさんへの需要を狙ったのでしょうが、
これも思わぬ方向に当たっています。

百合ジャンルの歴史においては、
百合の鉱脈は少女同士だけではなく、
大人の女性同士、あるいは大人と少女の間にも存在する事を
おそらく最初に示したジャンルでもあります。
(もちろんこれ以前にもそういう作品は多数あったでしょう)
ファーストインパクトこそ艦これに持っていかれましたが、
アニメ化をきっかけにその意義が大いに注目され、
今日も非常に活発なジャンルになっているのは先述の通り。
20代後半が明言されてるキャラ同士の組み合わせがジャンルになったのは
デレマスが最初の筈。

後続作品のシャイニーカラーズは、
2018年現在、まだコンテンツそのものが大当たりはしていない模様。
やはりアニメ化待ちになるのでしょうか。
…ただ、最年長が現状23歳(しかも一人。20代ですら二人だけ)なのは、
そのずっと上の女性を当ててるコンテンツの後継作として
ちょっと痛手になる予感も。

・ラブライブ!(10)(アニメ、ゲーム13)
元々は2010年の雑誌企画で、CD、漫画(11)ライブ(11)の成功を経て、
アニメ(13)で一気に爆発。
学校生活の中でアマチュアとしてアイドル活動を行う
「スクールアイドル」の概念をぶち上げたシリーズです。

初めは学校存続の為に始めたスクールアイドル活動を通じ、
少女達が集い、時にすれ違いつつも、
最終的に九人全員が主人公として結束していく物語で、
社会現象になるくらい多くの「ラブライバー」を生み出しました。

製作者の予想を遥かに超えてヒットした作品でもあり、
その中には大量の女性ファン、更に百合ファンも含まれています。
(間違いなくこんなに女性に当たるとは思ってなかった筈)
男性と女性で人気の組み合わせが大きく異なる事、
百合二次創作している人数はおそらく女性の方が多いのも前述の通り。
この作品はネタバレの意味が殆ど無いので名前を出すと、
にこまきとのぞえりは女性人気が半端なく強いですし、
二次創作してる方の多くも女性です。
この組み合わせが人気な理由が分かると、
女性に当たる百合の何たるかも分かるかもしれません。
ちなみに私はまだ学んでいる段階です。

特に女性にとっては東方に続く第二の巨大百合ジャンルです。
男性はμ's、ないしAquorsをアイドルとして追いかけもしますが、
女性は比較的中に入りやすい(無論、外から見ている人もいる)分、
そこで描写されるときめきは女性により強く響くのかも。

…男性目線からすると、
明白な主人公がいるわけではないので、
一体化の方向で行くとちょっと難しいんですよね。
出来ない訳ではないんですが。

ちなみに無印の組み合わせ一番人気は三年生と一年生、
具体的には先述のにこまきなのですが、
そこには先輩後輩の文脈は殆ど無いです。
これはマリみてにおける超然とした存在への「憧れ」を起点とし、
様々な感情へ分化した百合において実は非常に特異かつ画期的だったりも。

いや「憧れ」が絡んでないわけではないのですが、
マリみてにおける高嶺の花への憧れではなくて、
もっとこう、何というか…
年が離れた級友なので距離そのものはずっと近いんですが、
決定的に自分とは違うものをお互いに持っていると言えばいいのか。

要は15年経って、百合へのときめきが
すごくすごく多様化したという話でございます。

・アイカツ!(12)
就学前の女の子をターゲットにし、
プリキュアのシリーズ化に成功したバンダイなどが
その少し上の年代を狙った企画。
トップスターを狙う少女達がその養成校に入って
妙な事もしつつ明るく楽しく頑張っていく物語です。

やはり少女同士の絆がアニメなどでガッツリ描写され、
メインターゲットである小学生女子のみならず、
中学、高校…どころか青年層の女性にも大ヒット。

そしてプリキュア同様、
このアイカツやプリパラが撒いた種は、
他の百合ジャンルへと入っていくきっかけともなっています。

というか、子供にとっては
ラブライブがアイカツの続編に見えるってのは、
言われてみれば分かるけど、意外でした…

・けものフレンズ(15)(アニメ17)
ヒトっぽくなった動物「フレンズ」達の集う、
でっかい動物園ジャパリパークで
よく分からない怪物「セルリアン」に脅かされつつ
フレンズ達と共にドッタンバッタン大騒ぎする、
一見すれば呑気で優しい世界での物語。

元はゲームが中心の企画でした。
アニメ化に際して色々世界観が書き足されています。

このジャパリパークを舞台に、
一切の記憶がない主人公があるフレンズと二人でパークを巡り、
総じてお人好しでちょっと抜けてる様々なフレンズに出会い、
彼らの問題を解決しつつ、自分が何者かを見つけて…

そこまで考えなくても 「すっごーい!」「たーのしー!」アニメです。

1話で主人公同様、視聴者も何が何だかな状況に放り込まれますが
2話でおや、となり
3話ではすっかり引きずり込まれてしまう
極めて優れた脚本と構成に、
一歩間違えるとチープになりかねない絵面が上手く嵌った
色々な意味で奇跡みたいな作品です。
見るなら必ず最後までどうぞ。
物語ってのはやっぱ脚本と構成なのねってのが本当によく分かります。

で、この「フレンズ」 一人の例外もなく女の子。
別名アニマルガールですし。
更に「けものはいても、のけものはいない」という事か、
大体の「フレンズ」には友達や、
構ってくれる別種の「フレンズ」がいるので、
あなたはレズね!(アミメキリン並の推理) という視聴者も続出しました。

間違いなく2017年アニメの最高傑作で、
日本各地の動物園で入場者が激増したりと、
ちょっとした社会現象…
どころか、ある1頭のペンギンが世界中に愛されるなんて事態さえ起きました。
まさか本当にサンドスターが降ってくるなんて誰が想像できたでしょう。

なのに、あんな事になるなんて…
どうして…

・ポプテピピック(14、アニメ17末)
クソマンガ、かつクソアニメ。
で終わらせてしまうのも何なので。

理不尽と暴力とパロディをミキサーにかけて、
女子中学二年生二人を生み出した4コマ漫画です。
原作の時点でなんとなく世に知られ、しかし狭く深く突き刺さっていましたが、
キングレコードが金を注ぎ込み、
神風動画やAC部などが全力の方向音痴に突っ走ったアニメで、
2018年明けの話題を完全にかっさらいました。
アニメが終わってすぐにファンの多くは見えなくなったのですが。

元々は15分アニメ
→30分に
→じゃあ声優を変えて同じアニメを二回放映しよう
→せっかくだから前半女性声優、男性声優で行こう
→じゃあ大御所も呼ぼうぜ
→そこまでやるんだったらアニメも前後で変えてみよう
→オッケーだったら設定の根幹に組み込んでやる

という流れが本当にあったのかは分かりませんが、
ともかく結果的に凄まじい実験作になりました。
女子中学生二人に郷田ほづみと銀河万丈をキャスティングなんて発想は
一見すると狂気の沙汰ですが、意外と計算づくでもあった模様。

一方で百合ジャンルとして原作とアニメを見つめると
根本的には女子中学生二人が世界に中指を突き立てる話で、
原作者も間違いなく分かっていて百合に通じるときめきを組み込んでいます。

ポプ子はピピ美がいない世界では生きていけない
ピピ美はポプ子がいない世界を生かしておく理由がない
という、一心同体のようでいて絶妙にズレのある二人の間に、
原作の時点で百合を見出していた方々は狂人扱いされていたのですが、
実は彼らは全面的に正しかったという。

…そしてアニメ化の結果、
最終回でこのズレに別の意味が入ってしまって
暗闇の更に奥に引きずり込まれた方々もいました。

ポプ子じゃなくてピピ美だったのは
間違いなく狙いがあった筈です。

その3はこちら。すべてVtuberの話

2018年9月8日土曜日

百合ジャンルの歴史 個別作品紹介その1

本編はこちらから

本当は紹介しないといけないのだけれど
その能力がないのでどうにもならなかった、という作品もいくつかあります。

実際の所「百合ジャンルの歴史」の関連記事として書いていますが
触ってみるきっかけだと思って気楽に読んで頂ければ。
では、やってみます。

・東方永夜抄(04)
Windows版第一作の『東方紅魔郷』が話題となり、
第二作『東方妖々夢』で既に大きなジャンルとなっていた東方シリーズの人気を
不動のものとしたのがこの『東方永夜抄』。

主人公が二人組×4(全員少女。少女(迫真))、
また敵役も魅力的な面子が揃って、
それまでの妄想勢力図を激変させた作品でもあります。
永夜抄以前はマリアリより霊アリの方が人気だった、なんて話が
当時からよく聞こえてきた位に。

この辺りから原作者公認の二次創作も勢いづき
ギャグ、シリアス、割合としては多くない18禁、音楽アレンジ、ゲーム
そして百合作品が堰を切ったように現れて、
この流れは2018年現在においてむしろ強くなりつつあります。
原作が10年以上定期的に投下され続け、
しかも二次創作公認のジャンルは現在でも東方くらいですし、
当然といえば当然なのかも。

何がきっかけで東方シリーズがここまで流行ったかは説明できないのですが、
「異世界」に「無数の少女(少女だって言ってるだろ!)」がいて、
好きな組み合わせで、好きなだけ公認で二次創作できて、
しかも男性を間に入れる必要が殆ど無い(やろうとすればできます)、
最初の巨大ジャンルだったのは間違いないです。

無数の女の子を好き勝手に二次創作できるジャンルは
それまでも存在していたのですが、
そこにほぼ一切男性が入らないのはおそらく東方が初めてだったはず。

なお永夜抄で最大の風評被害を受けたと思われるのが、
かのアリス・マーガトロイド嬢
(見た目も中身も少女ですが、設定によれば百歳は越えているらしい)。

永夜抄以降、ありとあらゆる種類の二次創作において、
出るだけでレズみたいな扱いを受ける事になり、
百合の供給と再生産、およびその受容に多大な役割を果たす事になります。

…〇〇先輩のようだ、と書くと袋叩きにされそう。
実は彼女の方がずっと先輩だったりするのも何とも。

もう一つ言及すべきなのが、東方と音楽の極めて強い結びつき。
原作者自身が音楽を聞いてほしいのでゲームを作っていると公言していますが
その質はずば抜けて高く、無数のアレンジが生まれています。

06年にはネタでないボーカル曲も作られ始め、
以降は明らかに百合を意識した曲も数多く現れています。
百合ジャンルの二次創作には様々な形態がありますが、
音楽や歌が一大勢力なのは東方とボーカロイド位です。

ここでは永夜抄を紹介しましたが、
外伝作品を含めても、何処からプレーしても問題なく世界観に入れます。
ただし『東方紺珠伝』はぶっちぎりで難しいらしいとか。

・ふたりはプリキュア(04)
元々女の子に人気のあった変身もの
×少年漫画のような友情、努力、戦い、そして勝利
=空前絶後の大爆発!!!

製作者の予想を遥かに超えて、
仮面ライダーやウルトラマンらと並ぶヒーローの一角となったシリーズです。
今となっては信じられないかも知れませんが、
シリーズ化するつもりは無かったんだそうで。

最初は二人組、
後のシリーズでは三人、五人、六人と人数が増えていきますが
少女達が戦いの中で色々ありつつ友情を育んでいくのは変わらず、
主目標の女の子達やそのご両親だけでなく、
老若男女に戦友の尊さを教えてくれるシリーズです。

それ以前にもスポ根もの等、
苦難の中で築かれる女性同士の友情を描く作品はありましたが、
命を懸けた「戦い」から生まれる絆を描いた画期として
やはりこのプリキュアシリーズは外せません。

…あまりにも有名な
「女の子だって暴れたい!」というキャッチフレーズは
実はドラゴンボールとかキン肉マンといった分野を任されていたスタッフが
いきなり女児向けアニメの現場に放り出されたので、
自分達のやり方でやってしまおうという開き直りから生まれたのだとか。

これがきっかけで、
日本の女児にとどまらず、世界のありとあらゆる女性が
「女の子だって暴れたい!」と思っていいんだと気付いたんだから
アニメってのはすごいなぁと。

・魔法少女リリカルなのは(04)
元々は「とらいあんぐるハート3」というゲームのスピンオフで、
これを原作として(別物の)深夜アニメを作ってみたら
製作者の予想を超える大ヒットに。
こちらも2018年現在に至るまでシリーズが続いています。

主人公(一応本当に9歳)とライバル(9歳)が
超科学じみた激しい魔法アクションの中で少しづつ距離を詰め、
最後に「なまえをよんで」終わる、
激突から生まれる友情を描いた物語です。

なお水樹奈々女史の歌手キャリアの起点でもあったり。
なのはシリーズのOPはいずれも名曲なので良かったらどうぞ。
特に二作目の「Eternal Blaze」は今でも彼女の大人気ナンバーです。

こちらは少女同士が切実な願いの為に衝突し、
その中で絆を生み出していく物語の画期となりました。
まどか☆マギカとかはおそらくこのシリーズがあってこその企画だったでしょう。

で、脚本の方はこの物語を「友情」を軸として描いていたらしいのですが、
視聴者はそこに強烈な「百合」を感じていました。
この辺、まだ「百合」とは何ぞやという問いにブレがあった事が伺えます。

…もう半分ネタバレしてしまいましたが
無印はできればこれ以上の事前情報無しで視聴してみてほしいです。
一クール作品屈指の名作なので。

あ、それと無機物萌えの方も是非。
会話可能な格好いい魔法の杖が大暴れします。

・舞-hime(04)
「サンライズ史上初の萌えアニメ」というキャッチコピーをぶち上げ
2クールかけて物語の隅々に張り巡らされた伏線が
事実上の最終話、25話における少女同士の〇〇に収束して、
視聴者の度肝を抜いた(そして26話で皆がひっくり返った)作品

…今となっては、どう考えても
25話を描きたかったから作ったアニメとしか思えないんですよね。
あの子もあの子もあやつもダミーだったんかいと。

ネタバレになってしまうので細かくは語れないのですが、
ガチレズなヤンデレ少女のとんでもなく強い想いと
ある事情で自分に向き合えなかった少女の決意が最後に交錯する
非常に鮮烈な物語でした。

後者は「恋愛」としては…と口にはしますが、
視聴者の解釈は様々。
劇中最強の想いだったのは論を俟たないでしょうが。

また一番目立ったのはこの二人でしたが、
例によって視聴者は他の少女同士の色々な繋がり、
例えば友情、激突などに、色々な組み合わせで「百合」を見出していました。
後者の少女に関しては他にも人気の組み合わせがあったり。

あ、それともう一人ガチの人もいます。

…実の所、この25話以上に美しい〇〇を
私見た事ないんですよね。
伏線の見事さを含めて一度誰かと思いっきり語ってみたいなぁ。

・ひだまりスケッチ(04)
美術高校に通う為に下宿生活を始める主人公の少女が
その寮友と共に送る日々を描いた4コマ漫画。
彼女達にはそれぞれの夢があり、その為の努力も描写されますが
中心となるのは何という事もない日々の生活です。

掲載誌であるまんがタイムきららの(2018年でも)看板作であり、
蒼樹うめてんてーの代表作。
原作の時点で人気でしたが、独特な演出に定評があるシャフトがアニメ化、
更に大きな支持を集めました。
なおうめてんてー×シャフトですが、3話で大変な事になったりはしません。

彼女達は一応違う部屋で下宿しているのですがとても仲がよく、
生活の大部分を共有していて、
実質一つ屋根の下で生活しているようなもので

…うん、普通にとても仲がいいだけではあります。
原作では、あくまで。

・らき☆すた(04)(アニメ07)
やたらハイスペックで重度の男性向け作品ヲタ、
そしてちんりくりんというエッジの効いた主人公の少女と、
その友達の少女達による日常系4コマ。
ヲタネタ、日常あるあるネタなどが噛み合っているのかいないのか
不思議な空気で展開される作品です。

こちらは京都アニメーションによるアニメ化でブレイク。
オープニングでいきなり踊りだしてえっ、となった原作ファンが
本編に入ったら大体漫画のノリで一安心、なんて事も。
主人公の中の人が前作(涼宮ハルヒの憂鬱)から上手く切り替えたのも
当時はちょっとした話題になったり。

原作は高校一年から卒業、その後まで描いて継続中。
アニメは二年生の途中まで描いています。
主人公が超マイペースな一方、ある理由から根が甘えん坊で、
積極的かつ少々不器用に友達に絡んでいくのが絶妙に妄想を喚起しました。
それと主人公以外にも仲良しさんは多かったり。

大ブレイクした涼宮ハルヒの憂鬱の後番組で制作会社も一緒という事で、
継続してみた視聴者、特に男性を百合妄想に引きずり込んだ作品でもあります。
一方、主人公のキャラ付けで伺えるように、
おそらく男性不在の男性向け作品として制作されたのですが、
しかし意外と…?

とはいえ後のけいおん! のように、
深夜の世界を飛び越えて同年代の少女に大当たり、とはいきませんでした。
日常を描くアニメという点では共通しているらき☆すたとけいおん! の違いは
一体何処にあるのでしょうか?
色々と考察の余地はありそうですが、ここでは論点を示すだけにしておきます。
真面目に考えるとこれはこれで面白そうなんですけどね。

・けいおん!(07)(アニメ09)
ある高校の軽音楽部に四人+後輩一人の女子生徒が集まり、
学園祭や新入生歓迎会でのライブを目指していく…
と書くとスポ根ものに思えるかもしれませんが、
実は日々のゆるい集まりを描いた日常系に近い作品。
京都アニメーションによるアニメ化で一気にブレイクしました。

主人公は設定されていますが 
「放課後ティータイム」と名付けられたバンドが話の中心。
顧問の先生や主人公の妹とかも登場しますが、人間関係はほぼ女性で完結します。
服飾、仕草、視線、空気…など、監督を始めとする女性スタッフの
徹底的な拘りが実って、ヲタクだけでなく世間の女子高生に大当たりしました。

無論アニメで現実ではないのだけれど
後一歩手を伸ばせば届くかもしれない、そんな等身大の青春を描ききって、
視聴者に強い印象を残しました。
少女中心の「萌えアニメ」から更に一歩先に進んだ、
おそらく最初のアニメです。

そしてこの少女達がある目的の為に集まって、
色々ありながらも結束していくという物語は、
「アイドル」という軸も合わさりつつラブライブ等に繋がっていきます。
実際直接流れた人もいるのですが、人数はどんなものかなぁ。

実の所この作品で、
青春に異性いなくてもいいんじゃね(いてもいいけど)、と思った方もいる筈。
恋愛するより楽しい時間があって、
そんな時間を分かち合える仲間がいるのって
何というか、本当にありがたくて尊いですよね。
…そんな感情が百合萌えとして解釈されるのも、ごくごく自然な流れでありました。

余談ですが、この京都アニメーションの徹底的なこだわりで
異性間を描写したのが『氷菓』
BLを狙ったのが『Free!』
GLを狙ったのが『響け、ユーフォニアム!』および外伝『リズと青い鳥』でした。
興味があったらこれらの作品を見てみるのも。

2018年9月4日火曜日

百合ジャンルの歴史 その3

その2はこちら

第九章 海の向こうから

アナ雪が出てきた文脈を探れる方って何処かにいないかなぁ
英文記事でもいいのであれば是非ご紹介下さい

一方この頃、米国のあるクリエイター達が作った映像が
日本を含めて世界でちょっとした話題になります。
最初は少女が独特な武器を振り回すバトルアクションとして、
それからは少女同士の密な絆を描いた物語として、特に米国で大人気となる作品、
・RWBY(13)
です。 この頃には海外でも百合のときめきが理解されており、
日本に輸入される頃には既に莫大な数の組み合わせが生み出されていました。
多分、海外発の百合ジャンルとしては最初のものだと思われます1
日本でどれだけの人気になるかはまだ未知数ですが。

一方その少し後に、あのディズニーが男女の愛だけでなく、
姉妹の情愛に真実の愛がある、という物語を書き上げ
世界がひっくり返ることになります。これが
・アナと雪の女王(14)
RWBYは製作者が日本のアニメや漫画からの影響を公言していますが、
アナ雪はアメリカ独自の文脈で生まれた模様です。
そこは日本が15年前に通過した場所! なんて言えもしますが、
何分ディズニーなのでその影響力は世界的に絶大なものとなりました。
一方ディズニーなので薄い本は作りにくかったのですが、
イラストなどは多く投稿されています。

ちなみに百合妄想は日本人に限った話ではないらしく、
それどころか二次元と三次元の区別が付かない方々は
同性愛を助長するから上映するな、とか言い出したりもしているようです。
近親憎悪って怖いですね。

最後に それから今に至って

…17年末までは今までの文脈で理解できる作品が当たってたんですが
直後にポプテピピックとVtuberが来てしまって

15年、人気が出始めるのは少し後ですが、
月姫やFateシリーズで百合人気にも貢献してきたtype-moonが
・Fate Grandorder
を開始します。それまで百合妄想を喚起した作品は
進撃の巨人を除けば登場人物の殆どが女性だったのですが、
この作品の男女比は然程極端ではありません。
現状、進撃の巨人同様にBLやヘテロを愛好していた女性を百合に引きずり込み、
現在もっとも勢いのある百合ジャンルとなっています。
ただ、確実に来るであろうガチャ規制によるブレーキがどう転ぶか。

…とか言ってたら、pixivではジャンル全体の人気は17→18でほぼ一緒なのに
百合二次創作は1/2になるという事態が発生してしまいました。
(ちなみに薔薇はほぼトントンです)
百合が熱くなるような公式供給がそんなになかったからなぁ…

更に大人気作を後継する
・ラブライブ!サンシャイン!!(16)や、
誰もが予想しない大ヒットとなった
・けものフレンズ(17)といった供給も入ったのですが。
今もなお、作品自体が大当たりし、
そこから百合妄想が発生するという流れは変わっていません。 
ゆるゆり、ポプテピピックのような作品も当たりつつはありますが、
最初から百合需要を主眼に据えて、
かつ巨大ジャンルになったという作品はまだ出てきていないと言える状態です。

これは薔薇同様、百合需要は現実の同性愛同様にどうしても少数派になる、
という事でもあります。今は無視はできない位の存在感は付きましたし、
これから薔薇並みの巨大な需要が発生するかもしれませんが。

…しかし最近、物語に男性が登場するのが苦痛という過激派の男性も現れ始めたとか。
かつて過激派の女性が辿った道を半世紀遅れで辿る男性が現れている。
ただそこには傍観者に徹したいのと、
自分も可愛い女の子になりたいという二つの流れがあるようです。
事ここに至って、百合による衝撃で男性の性、
及びその自認が揺らぎつつあるのかもしれません。
女性のそれはもっと昔に揺らいでいたのですけどね。

もしかすると以後、もっと巨大な何かが来るのかもしれません。
絶対的な筆力や画力、あるいは構成力で、人のあり方を揺さぶりうる程の。
今はまだ百合需要は少数派です。
しかし真正面から百合を狙い、
世界を作り変えるような作品が現れる可能性も絶無ではないでしょう。

その道が厳しいのは私にも分かります。
しかし、これから何が起きるかは私にはまだ分かりません。

…と、まとめていたら。
・ポプテピピック(原作14。アニメ17-18)
が襲来。とびっきりのクソアニメとして話題になったのですが、
実は原作からして百合へと繋がる何かが色々と組み込まれていて、
更にアニメでも強烈なフックが足され、まんまと多くの百合好き(特に女性)を直撃2
原作は続行中、アニメ二期もあるでしょう。
狙って当てた作品の二つ目になるかも。

続けて17年末から人気が沸騰してきた
・Vtuber
特ににじさんじ(18)がジャンルとなりつつあります。
まだちょっと大ジャンルとまではいかないですし、
おそらく何処かで卒業を描かないといけないので時間制限もあるのですが、
全く新しい形としての供給は果たして何処まで飛べるでしょうか。

さらにまどか☆マギカの外伝となる
・マギアレコード(17)
が18年8月末にアニメ化発表。
割とディープな百合好きの支持を集めている作品です。
どれ位原作の要素を組み込むかはまだ不透明ですが、
もしかすると百合狙いかつ大ヒットになる最初の一撃になる、かもしれません。

そしてもう一つ
・私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い(11、アニメ13)
が途中から方向転換、
癖のある女友達と一緒にいようとする中で主人公が成長していく話となり、
18年現在、強烈に百合妄想を引き出す作品となってきました。
おそらく現在の路線でアニメ二期が来ます。こちらも大爆発するかも。

と、色々と将来への伏線が張られてきました。
この後どうなるかなー、何かあったら書き足したいものです。

おまけ 女性に百合が当たった理由を、分からないなりに考えてみる

第一節 輝きは誰もが持っていた、気付いてなかっただけで
 
誰だって好きな事をしたい
そして出来れば、相棒がほしい

身も蓋もない話を一つすれば、プリキュア、けいおんの辺りで
萌えアニメの服装等がダサくなくなったので女性にも人気が出た、
という事実は多分あります。
けいおんをアニメ化した京都アニメーションもその辺りを明言しています。

勿論、それは決定的な要因ではないでしょう。
先に結論から述べてしまえば、アニメや漫画、ゲーム等において描かれる
女性の「格好良さ」が多様化、具体化して、
より多くの人々に響くようになったんじゃないか、という文脈を建てていきます。

さてここでは「格好良い」女性を、
要は自らの道を行き、世界を作り変える女性として定義します。

そんな女性達は昔から今に至るまで人気を集めてきました。
もっとざっくり書けば自由で強い、という事ですが、
この二つの単語を使うと多分に別の意味が入るので、
敢えて「格好良い」という言葉を当てはめてみました。 

ただ、かつては
・女傑(トルメキアの殿下とか)
・男装の麗人(天王星の人とか)
・高嶺の花(赤薔薇さまとか)
と、際立って有能で頼れたり、超然とした憧れの存在だったり、
あるいは単純に力が強かったりと、
人気を集めていた「格好良い」女性は
特徴的で普通ではない人が多かったように思えます。 

しかしある作品において、
(一応宇宙を捻じ曲げる力を無意識に備えているのだけど)
使命とか役割とかとも一切関係なく、自分がやりたい事を全力でやるだけの、
普通の女の子が、世間の、勿論女の子達も含めた人気を急激に集めます。
・涼宮ハルヒの憂鬱(アニメ06)
です。 プリキュアや東方においても主人公の女の子達は割と普通だったのですが、
それなり以上に強いし何らかの使命を背負う存在でした。
そこから強さとか使命を省いた限りなく等身大の女の子も
「格好良い」女性として描けるし、それで大ヒットを狙える事がここで証明された、
と私は見ています。

…語り部となる少年を少女に置き換えたらという二次創作が、
当時爆発的な勢いで流行っています。
では、最初から全て少女同士の話として描かれていたとしたら?

この物語が大当たりするにおいて、二人が男女である必要があったのか、
正直私には判断しかねます。
一つ書けるのは、この物語で女性の支持を集めたのは
語り部の少年と超能力者の少年(?)のBLだけではなかった、という事。

主人公の(例の力を除けば)少々人付き合いが苦手な普通の少女と、
語り部の少年の何とも言えないもどかしい繋がりにも、
根強い女性の人気があります。

この二人の場合、少年少女の最終的な関係が何処に落ち着くのか、
腐れ縁、親友以上、それとも…。
その辺がとても微妙で絶妙なのが女性の支持を集めた理由なので、
少女同士だとどうなったか。
大当たりしなかったかもしれないし、
もしかするとセーラームーンS以上の大爆発が起きたのかもしれません。

…ともあれ、その3年後。
本当に普通の女の子が、やはり普通の女の子達と、異性を挟まず、
自分のペースで、やりたい事をやるアニメが大当たりします。それが
・けいおん!(アニメ09)です。
特殊な空間ではなく普通の学校で、世界に関わる使命や資質とかとも全く無縁で、
「めざせ武道館!!」とは言うものの、それ以上に皆で遊びたい。
他にも友人はいるけど、やはり五人がいい。
そして一番大切なのは、
誰の為でもなく自分達のやりたいように三年間を駆け抜けた事。
言明しているのを見た事がないので
(誰かやってたらごめんなさい)はっきり書くと、

放課後ティータイムの五人は「格好良い」のです。
特に女の子達にとっては、すごく。

誰にも阿らず、自分のやりたいようにやる。
だらけるにしても全力でやるにしても。 
「格好良さ」は、結局そこに尽きるのではないでしょうか。

以後ここを踏まえる事で、ありとあらゆる「格好良さ」を描けるようになりました。
これを私は女性の「格好良さ」の多様化、具体化と定義しています。
更には百合、というか女性二人(ないしそれ以上)だと、
「格好良さ」を様々な角度から描けます。 

二人の「格好良い」女性
「格好良い」女性に惹かれる女性
「格好良く」なろうとして背伸びしたり
二人で「格好良さ」を見つけたり
あるいは「格好良さ」を折ろうと企てたり…

加えてこの軸さえ抑えておけば無数の味付けができます。
見た目、性格、立ち位置、目標、願い、コンプレックス等々…
この辺りは何を試してみても当たりうるでしょう。
しかもキャラ同士で組み合わせ出来る。

実際、デレマス(11)(アニメ15)では
30kgのニート少女×186cm超の長身少女とか、
少々不器用な26歳のお姉さん×呑兵衛の25歳児など、
特徴的な組み合わせも人気だったりします。

また、この少し後に火が付く二次元アイドルブームも
おそらくこの「格好良さ」と無縁ではない、
というか自分の意志でアイドルを目指し、世界を変えていく姿は、
まさに自由で強くて「格好良い」女性そのものです。

ラブライブ!は自分たちのやり方で廃校という運命を変えていく話で、
サンシャイン!は変えられなかった運命の中で輝きを見つける話でした。

ポプテピピックも根本はここで、
要は女子中学生が二人で世界に中指を突き立てる話です。
自分たちが生きる為に。

逆に「格好良く」はなくても、そうなれればと願う人物が支持を集めたりも。
Fate/Grand orderのラヴィニア・ウェイトリーという少女は、
現状から抜け出そうとする望みはあるものの、それを実行できない、
有り体に言ってしまえば卑屈で根暗な性格で、
状況を変える事が出来たのは最後の最後だったのですが、
それ以前から女性の支持も確実に集めていました。
それまでは彼女自身も、親友の少女も 「格好良く」はなかったのにも関わらず。

…本人は自身の姿を醜いと思っていて(実際はそんな事無いよ!)
世間には鼻つまみ者扱いされてる極度に内気な少女が、
登場した時点で妙な支持を男女から集めていたんですよね。
供給が途絶えてしまっている今ではちょっと影が薄くなってますが…
うーん。実に興味深い。

と、こんな風に。
かつて特筆すべき個性や資質と不可分だった「格好良さ」は、
一旦ごく普通の日常を過ごす普通の女の子達に還元され、
それから様々な方向に広がっていきました。
そして「格好良さ」を軸とする女性にとっての百合も、
平行して多様化、具体化している…というのが私の理解です。

第二節 姫と女騎士

あるいは人付き合いが苦手な女性と
そんな彼女を引っ張っていく女性

とはいえ古来のお約束である、
囚われの女性を助ける騎士という物語3もまた
今日において強い人気を見せています。

ただ誤解してはいけないのは、この囚われの女性は
助けられるだけで何もしないという訳では決して無く、
騎士と共に困難にぶつかり、立ち向かって、
最終的には「格好良く」世界を変えるのが今日の流行りであるという事です4
で、これまでは男性が入る事が多かった騎士の位置に、
女性が入る物語が大ヒットしたのが2010年代でした。

進撃の巨人がまさにこの典型で、
ある事情で心を閉ざした少女と彼女に心臓を捧げた女性の絆が、
少女を支えて宿命に立ち向かう力となり、世界を作り変えた…という物語は、
(多分に男性キャラを目当てに読み始めた方々も含めて5
女性ファンの強烈な支持を集めました。

魔法少女まどか☆マギカも複雑なひねりを入れつつも
この王道をなぞって女性に大当たりしています6
悪意に翻弄されて壊れていく少女を救う為に、
過酷な過去を背負った少女が単身で運命に立ち向かったり。
かつて自身を救った少女の為に、
人格が擦り切れるまで戦い抜いた少女であるとか。
彼女たちも多くの女性ファンを引き寄せています。

しかしまどマギが複雑なのは
どっちが囚われの女性で騎士なのかが激しく入れ替わる事。
そしてそれ故に、視聴者の女性の視点が何処にあるのか、
囚われの女性か、騎士か、第三者なのかも何とも言えなかったりします。
それぞれにファンが居るのは確かなのですが、
一番多いのが何処なのかまでは私には分かりません。

艦これにも実はこの類型があったり。
最初に注目を集めたのは世界水準を軽く越えてる軽巡姉妹だったのですが7
火を付けたのは一航戦の二人でした。
加賀さんは男女から割と人付き合いが苦手な人として扱われていた一方、
赤城さんの扱いは男女でかなり変わっており、
男性はどちらかというとネタキャラ扱いしていましたが、
女性は状況に動じない頼れる女性として受け取っていたように思えます。

何が言いたいかというと、
他人と壁を作りがちな(囚われの女性)加賀さんを
無二の盟友で天衣無縫な(騎士)赤城さんが引っ張って、
ミッドウェーの悪夢を乗り越えるという筋書きが、
特に女性において見出され、また人気を集めていたのではないかと8

…そういえばユミクリ、杏さや、赤賀だったなぁと。
百合の場合は左右にあんまり意味はないのですが、
成り立ちを考えるとこの並びになるのもちょっと分かります。

第三節 BL経由の百合

少年漫画からBLに入る方々は無数にいるけれど
登場人物を全員女性にしたらそのままGLに入ってきたでござるの巻

一方で供給側からの話をすると、
主人公を含めて重要人物のほとんどが女性で男性の影が限りなく薄い、
そんな男性向け作品も00年前後から増えてきたのですが。

これらの作品はあくまで男性を狙っていたわけで、
展開は男性向けする少年漫画のノリで、
少女達の中身も少年っぽくなる傾向がありました。
東方シリーズが最初に男性に当たったのはこれも原因…かも?
ちょっと東方に関しては中身が少年だったかどうかが何とも言えませんが。

で、これらの作品から百合に入った男性が
00年代の百合人気を盛り上げたのでは、という考察を第四章で書いたのですが。

少年っぽい少女達が
少年漫画みたいな展開をする作品には
登場人物の性別を気にしなければBLに通じるときめきがあるのでは…?
というひらめきが、10年代頃には女性の間にも認識され始めます。

艦隊これくしょんとか無印ラブライブ(サンシャインも?)とかが
女性にも大当たりしたのはおそらくこの文脈とも無関係ではないです。
そしてこの、少年っぽい少女達が少年漫画っぽい展開をする作品の典型として
女性にもスマッシュヒットしたのがガールズアンドパンツァー劇場版。
TVアニメの時点では男性の支持が多かったのですが、
劇場版の出来が素晴らしかった事もあって一気に女性人気が沸騰。
pixivでも女性によるものと思われるガルパン二次創作が急増し、
その中には百合作品も無数に含まれていました。

消しゴムと鉛筆があればBLが成立するというジョークが00年代には生まれていますが、
関係性が重要ならキャラは女性でもいいんじゃないのか、
という事に気が付くのにはそこから10年かかった形になります。
性別の壁は有機物と無機物の壁より遥かに高かったという、
なんというか不思議な現象が確認されたのが10年代。
これは女性に限った話じゃないんですけどね、実の所。

ともあれ。
まどマギ、進撃、ラブライブ、ガルパン劇場版などの作品をきっかけに
10年代、特に2013年以降は女性の百合ファンが急増しています。
ただ、この新しく入ってきた女性ファンはそれまでの女性ファンとは
微妙に毛色が違いもするようで。
10年代に入って百合二次創作はBL二次創作っぽくなった…という声もあり、
私もちょっとそれに同意しています9
しかしそれは数が増えた、という話であって
それ以前からあった百合二次創作の流れが消えた訳でもないのですが。

第四節 では二次創作でどう描かれるのか

専門用語を使って身も蓋もない結論を先に書くと
バリタチ同士の百合二次創作ってそんなにないよね

…で、ここまでが百合妄想の起点となる原作の話です。
二次創作の作者が女性の場合、
登場人物はかなり慎重に距離を測っていく事が多く、
またその綱引きが見所ともなります。

面白いのは、原作ではあけすけであっても、
不思議と百合二次創作においては戸惑いや脆さが強調される事が時々あるという点。
女性を惹き付ける原作の「格好良さ」は、
二次創作において不安や渇望、
相手の存在によって初めて埋まる(もしくは誤魔化しうる)欠落に裏打ちされ、
真に完全なものになる、という事なのでしょうか?

これは奥ゆかしさとは違う気はします。
しかしずっとこの傾向が続くのか否か。
10年も経ってしまえば原作に何を求めるか、
そして二次創作がどのように展開されるかは、 
まるで変わっているのではないか、という気もします。
そして未来がどの方向に進んでいくかは私にはさっぱり分からないので、
一旦ここで考察を打ち切る事とします。

おわりに

何分百合の歴史に関しては先行研究が存在しなかったので、
こんな風に独断と偏見で自分なりにまとめる事しかできなかったのが
辛い所ではあります。
しかし「何いってんだ此奴」というあなたの感情もまた、
そこから自身の意見をまとめる、
更には妥当性のある論考を生み出すきっかけとなるのも事実なので、
こうして蛮勇を奮ってみた次第です。

…すいません嘘つきました!
この薄い本に至るもやっとした考えをまとめて、
実際に形にするのが最高に楽しかったからやったんです!
とはいえこの薄い本が読者の方々に何かを引き起こすとしたら
とても嬉しいのもまた事実。

機会があったら皆様と色々語ってみたいです。
いつか、また、何処かで!

あ、個別作品紹介もしてます。

2018年8月31日金曜日

百合ジャンルの歴史 その2

こちらがその1

第五章 特異点2004

この年に集中したのは本当に偶然だったのだろうけど

そして2004年。
製作者ですら予想していなかった多くの大ヒット作から、百合の莫大な供給が入ります。
pixiv百科事典では「百合が本格的なジャンルになるのは平成10年代後半」
とされて いますが、この2004年こそが平成16年、10年代後半の始まりとなります。

私はこの年を「特異点2004」と名付ける事にしました。

少女(少女!)二人組、四組の主人公に
非常に特徴的な敵役(全員少女。何人かは永遠に生きてるけど少女)が揃って、
東方シリーズの人気を決定的にした
・東方永夜抄(04)

魔法少女と少年漫画の戦いを組み合わせた、少女達が戦友として絆を深めていく物語
プリキュアシリーズの元祖
・ふたりはプリキュア(04)
同じく魔法少女と砲撃と近接戦闘を組み合わせ、戦いの中で二人の少女が交錯する
・魔法少女リリカルなのは(04)

美術高校に通う為に「ひだまり荘」に下宿している、
六人の少女達の賑やかな日々を4コマ漫画にした日常系作品の代表格
・ひだまりスケッチ(04)
超マイペースなオタ少女泉こなたと、その友達を中心とする空気系4コマ
 ・らき☆すた(04)(アニメ07)

「サンライズ初の萌えアニメ」というキャッチコピーを掲げてたのに、
蓋を開けたら (多分)アニメ史上元祖の公式クレイジーサイコレズ藤乃静留さんと、
自分に向き合えなかった玖我なつきの〇〇に殆どの伏線が収束した1
 (ちなみにこの二人は主人公ではない)
・舞-hime(04)

更にジャンルとまではいきませんでしたが、
和風伝奇の世界観において吸血で繋がっていく少女同士の絆を描いた
「ソフトな百合」ゲームの金字塔
・アカイイト(04) 
主人公の少女来栖川姫子が
それぞれ仲の浅くない少年大神ソウマと少女姫宮千歌音の間で揺れつつ、
自分は千歌音ちゃんが好きだと作中で明言した2
(そしてフられるソウマ君の言動が超格好良かった3
・神無月の巫女(04) 

…ちなみに千歌音ちゃんも元祖公式クレイジーサイコレズです。
本編登場はこちらの方が僅かに速く(10/1)
OPに登場したのは舞-himeの藤乃静留さんが先でした(9/30)
これならどっちも元祖公式扱いで良さそうです。
カードキャプターの大道寺知世さんは公式言明は無かった筈。

これらは作品自体が衝撃的だったのですが、
戦いの中で芽吹く絆(プリキュア、なのは)→まどか☆マギカ、進撃の巨人等
何気ない日々を共にするちょっとした幸せ
(ひだまりスケッチ、らき☆すた) →けいおん!、ゆるゆり等
狂気じみた愛への報いと救い(舞-hime、神無月の巫女)→まどか☆マギカ等

といった具合に、後に「百合」の大爆発を起こす作品の下地にもなっています。
ただ強調しておきたいのは、これらの作品で明白に百合人気を狙ったのは
舞-hime、神無月の巫女、アカイイト位で、
後は受け手の百合妄想で人気が沸騰したという事。

2018年現在も狙って当てた作品はいくつか発生するも、
巨大ジャンルまでになった作品はまだ存在していません。
この狙った作品は大きくは当たらないという事象は801とも共通しています。

…このように「特異点2004」において、後に伝説となる作品群が何故か無数に現れ。
嵐のように継ぎ足された供給は、すぐにより大きな需要を生み出していきます。
そして先の雛形全てを本編、及び二次創作において飲み込んだ東方シリーズが、
初の巨大百合ジャンル(この時点では男性のファンが多かったでしょう)として
君臨するに至ります。
「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ」
とはよく言ったものです。

…ところで・ヤミと帽子と本の旅人(アニメ03末-04)で、
CV能登麻美子のガチレズ少女が〇〇した(声付き)事がごく狭い世界で
強烈な話題になったのですが、実は彼女が尖兵に過ぎなかったなんて
当時は誰も想像もしてなかったなぁ、と。

第六章 ここでちょっと類型を整理しつつ

…最近は完全に男性、あるいは女性を排除する作品も増えてきましたなぁ

さて、読み手が百合妄想する時に問題となるのが主人公の存在です。
その際の扱いは主に三類型に分けられるので、ここでちょっと解説してみます。

1、百合妄想に主人公も絡む
物語の主人公が女性である場合は当然何の問題も起こりません。
04以降だと女子校での異次元麻雀を描いた
・咲-Saki-(06)や
史実のエースパイロットをその愛機と組み合わせて女体化した
・ストライクウィッチーズ、通称ストパン(07)等。

2、主人公とは別の所で妄想が進行する
一方主人公が男性でも、女性キャラ同士の間柄に百合が見出される事も。
男性(と思われる)プロデューサーとしてアイドルに関わる
・アイドルマスター(通称アイマス)シリーズ(無印05)
実はpixiv2013年百合部門の首位を勝ち取っていた、登場人物の多くが男性の
・進撃の巨人(09)(アニメ13)
性別を含めて設定の薄い「提督」がプレイヤーの
・艦隊これくしょん(13)等。

また主人公が女性であっても、その主人公がいない所で百合が展開される事も。
例えばマリア様がみてる、東方シリーズ、fate/grand order等。

3、グループ全体が主人公
この場合は妄想がグループの中で完結しがちになります。
けいおん!(09)、ラブライブ!(11) がその典型。
ただグループの外に女性がいれば妄想に絡んでくる事も。

この主人公どうしようか問題をパロディした作品もあります。
名が雄弁に体を表す、
・ゆるゆり(08)には主人公設定なのに影薄キャラだったという
不思議な存在がいますが、 あれはこの問題をメタったものであります
…もしかすると。 

更には物語すら存在せず、
キャラと声だけ提供するから後は全部勝手にやってで成立してしまった、
ボーカロイド及びボイスロイド(最初に注目を集めた初音ミクが07)という極めて
特殊なジャンルも存在します。
各々が好きな曲を作って好きな風に歌わせ、その中には百合ネタもあったのですが、
巡音ルカ(09)の登場以降は百合作品等も増えている模様です。
2018年現在ではボイスロイド実況とかで百合ネタを使って当ててる動画も多数。

…実は可愛い女の子になってみたいという男性の願望が
(狙ったかどうかは分かりませんが)具体化した作品もこの辺りで出てきています。
・処女はお姉さまに恋してる(05)
とか
・はぴねす!(05)とか
どちらも女装した少年がぶっちぎりの一番人気です。男性向けR18ゲームなのに。
…確か「男の娘」という概念が認識され始めたのも2005年頃だったような。

この二人はあくまで少年(前者は中身男の子、後者は中身女の子…?)であり、
百合とは全く別の話です。
しかし男性が女性の目線で物語に入ったり、女性キャラを二次創作で動かしたり
(そして百合させてみたり)はもうごくごく自然に行われていたという事実を
裏書きするので、あえて名前を出してもみました。

…更に書くと男性において、
女の子になってみたいという願望の延長線上に女装があり、
また百合の水脈の一つにもなっています(ただし全部ではないです)が、
少年愛の延長線上にある男の娘やショタコンは起源においては全く別物です。
これが表現物になると混線する事もあったりするからややこしいのですが。

第七章 そこにいたのに見えなかったもの

今でも見えてない人もいます。男女ともに

信じられないかもしれませんが、10年代初頭位まで、
男性の多くは萌え作品…というより無数の女性が登場する作品に、
多くの女性ファンが存在している事を認識できていなかったのです。

多くの女性が登場しているという点では萌え作品と共通する
セーラームーン、マリア様がみてる、プリキュアは、
男性にも人気はあったのですがあくまで女子向けの作品と認識されていました。
当然これらの作品には無数の女性ファンがいましたが、
男性の意識にはその存在は入っていませんでした。不思議な事に。

また東方風神録(07)の頃は、女性がネットコミュニティで性別を明かすと「嘘だ」、
という反応が多かったのを私は覚えています。
コミケに行けば女性がブースに座っていたにも関わらず、
既に女性が公式漫画を描いてたのにも関わらず、です。
東方に関してはあくまで原作がシューティングゲームで、
しかもかなり難しい4ので女性には敷居が高い、
と思われていたのが理由の一つでしょう。
実際女性シューターもいましたが多くはなかった筈です。 

原作ゲームをプレイしてなくてもええやんという流れが出てきたのは
公式コミカライズや二次創作が独り歩きしてしばらく経った後です。
紅魔郷から6年、激ムズでクリアを挫折した人も多かった地霊殿以降でしょうか。
その意味で、秘封倶楽部シリーズは音楽を中心に展開されたので、
女性にもとっつきやすかったのかもしれません。
(2000年代では、どちらかと言うと秘封倶楽部シリーズの方が
女性ファンの比率が比較的多かった…ような。
STGじゃないという理由より設定が嵌った、という理由も強かったでしょうが)

…とはいえこれは東方以外の作品に
女性ファンがいる事を認識できなかった理由にはなりません。
何故か、に感してはおそらく非常に複雑な話になるので具体的な言及を避けます、が…
可愛い女の子になってみたいという願望の延長線上で少女主人公の物語、
及び百合を捉えていた人々にとっては、例えば東方のような少女中心の物語は
根本的には男の子 (けして男の娘ではない)の世界に見えていた、とかでしょうか?
…仮説というにもはばかる、我ながらひどく一面的な見方ですが。

そんな風潮が
・Pixiv開設(07)辺りから変わってきます。
イラストコミュニケーションサービスとして開設されたこのPixivには、
一次創作、二次創作を問わず百合作品も大量に投稿されていくのですが、
その描き手に多くの女性がいる事に男性もようやっと気付き始めます。
更に
・twitter日本上陸(08)によって、
それまで匿名掲示板などで交流していた百合ファンが名前付きでの活動を始めます。
絵、文章、140字に収まる小ネタ等が一気に拡散し、
またその作者により直接に感想が届くようになりました。
これが強烈に創作意欲を刺激していきます。

また百合関係に限らず、一部を除いて男文化だった匿名掲示板では
女性は男を演じて書き込んでいたのですが、
新たな空間であるtwitterではその必要もなくなり
普通に女性として振る舞えるようになりました。
仮面舞踏会は楽しいですが面倒なのです。
個人サイトやブログで女性かつ百合ファンである事を公言していた方もいたでしょう、
しかしインターネットで女性の百合コミュニティを一挙に可視化させたのはSNS、
特にtwitterだったと私は考えます。
…それでも何故か男性の視野には女性ファンは入っていませんでした。

09年には女性監督及びスタッフが中心となってアニメ化された、
とある女子高生達の緩いバンド物語・けいおん!が女子高生に大ヒット、
深夜の枠を越えてちょっとした社会現象になり、
またここから百合のときめきを見出した女の子も大量発生したのですが、
この社会現象を事実だと思えない男性も実際いました。

しかし衝撃的な展開で話題となった、
魔法少女ものと邪悪さを悪魔合体したアニメ
・魔法少女まどか☆マギカ(11)
がその圧倒的な威力で男も女も問答無用で巻き込むに至り、
遂に百合ファン、というより少女達の物語に惹かれる男性と女性が邂逅しました。
自分達が固唾を呑んで見つめていた物語に無数の女性ファンがいた事、
また彼女達が百合そのものの人気を激増させる位に
無数の二次創作を生み出したのを目の当たりにし、 
ここでやっと男性百合ファンは女性百合ファンの存在を認識できたようです。

しかしそれはあくまですれ違いであって、両者が合流したわけではありません。
勿論それぞれに良さを見出し、感覚を研ぎ澄ませた人々もたくさんいたのですが。
これ以降もどちらかと言えば…ですが、
男性にヒットする百合ジャンルと女性にヒットする百合ジャンルが分かれていきます。
前者の例として劇場版5以前の
・ガールズ&パンツァー(12)で、
後者は
・進撃の巨人(アニメ13)
が代表格です。

また同一ジャンルの中でも、
男性にヒットした組み合わせと、
女性にヒットした組み合わせが異なるというケースも起きていきます。
例えばラブライブ(無印)の組み合わせ人気一位二位は女性の支持が圧倒的に強いです。
またラブライブの場合、作品そのものの人気は僅かに男性よりですが、
おそらく二次創作している人数は女性の方が多いです。

一方この頃プリキュアで当てた女の子達のもう少し上を狙った、
データカードダスとアニメの並行企画
・アイカツ!(12)
も目標に6大ヒット。
元々、アイマスシリーズで二次元アイドル人気が喚起されていましたが、
この子供を狙って当てたアイカツ!が、 直後に始まり今も続く
二次元アイドルブームの確固たる地盤になっていきます7

そしてスマホゲーとアニメ等のメディアミックスとなる
・THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS、通称デレマス(11)(アニメ15)
・ラブライブ!(アニメ、ゲーム13)
等が、 女性の間にも二次元アイドルブームを引き起こし、
また彼女達の一部に百合妄想の種を豊富に提供しました。
そしてデレマスとラブライブは矢継ぎ早に公式供給が入り、
百合ジャンルとしても継続的、かつ大きな存在となっていきます。

地上波アニメは今もなお強力な武器ですが、
スマホの手軽さもそれに匹敵しうる長所となりました。
百合を片手で持ち運べる時代がやってきたのです。

第八章 艦が山を動かした

根本にあるのはやはり情熱なのでしょう

稼働は2013年末。流行りだしたのは年が明けた2014以降。
・艦隊これくしょん -艦これ-
が(またも製作者の予想を超えて) 大ヒット。
東方に続く、第二の男女を巻き込む巨大百合ジャンルとなります。
その勢いはまさに山が動いたとしか形容できないもので、
特に東方から艦これに乗り換え、
ないし二足のわらじを履く事になった人々も多かったです。
その中にはやはり大量の百合ファンも。

何故かは私には断定しきれません。
人は常に新しく魅力的なものを求めるのだという一般論を述べるのは簡単ですが、
しかし私に指摘できる事もあり、

1、史実は強い
2、(見た目が)大学生以上の女性が大量に登場している
この二つを満たすジャンルはそれまで存在していなかった、とは言えます。
ストパンが1を、デレマスが2を先行していましたが。
実際艦これからアニメをきっかけにデレマスに移行した人もいるし。

1に関して
アンサイクロペディアに「加賀」という項があります。
艦これネタ? と今見たら思うかもしれませんが、
2011年、艦これの二年前に書かれた記述だったりします。
加賀さんのサイドポニーは史実ネタだった…?

史実以上の物語を突きつけるのは創作の矜持とはいえ、
事実は小説よりも奇なり、という言葉もあります。
やはり史実には多くの人々を引きつける浪漫、ときめきがあるのです。
そんな浪漫を擬人化した企画は他にも存在していたのですが、
艦これは一癖あるキャラデザ、(稼働当時は)気楽に遊べるゲーム性8等で
当時の世相を砲雷撃、見事に直撃を奪いました。

物や概念の擬人化ネタは男性化では既に一つ大当たりしていた(国のアレ)のですが、
女性化での大当たり一番乗りがこの艦これ。
提督というプレイヤーのアバターも存在する世界観ですが、
女性化した艦船、作中での名は「艦娘」達の間には百年以上遡る繋がりや、
二次大戦で運命を共にし、あるいは死に別れるなど、強烈な史実が無数に存在し。
まあ、そうなるなという話で、激烈な百合妄想を喚起したのです。

…実はキャラクターデザインや、艦これ独自のキャラ付けを契機としている、
史実と全然関係のない組み合わせも結構あるし、
こうであってほしかったという願望も多く発生しているのですが、それはともかく。

2に関して
これはあまり指摘されてこなかった気がするのですが、
百合ジャンル…以前に、 萌え作品において大学生以上の女性を
多数出して当たったものは、実はそんなに多くなかったのです。
デレマスも該当する9のですがブレイクは15年のアニメです。

セーラームーンやマリみてから始まった百合ジャンルは、
少女同士の繋がりを起点にしていたのですが、
大人の女性同士、女性と少女との繋がりにも当然需要はあります。
大きくはなかったのですが供給も。

東方にも大人として描けるキャラはいましたが、
基本的には「少女」達の物語ですし、
大人同士の組み合わせ…となるとかなり限定されるジャンルでした。
紫の人絡み等、 有力な組み合わせが無い訳ではなかったのですが。

そこに艦これが巨大な供給を突っ込みました。
共に時代に巻き込まれて空母に改装され、同じ戦場で沈んだ艦
国を背負う戦艦として建造されるも、別々の虚しき最期を迎えた姉妹艦
激戦を共にくぐり抜け、片方だけが生き残った重巡姉妹
例えば彼女達が、大人の女性として描かれたのです。

…これは上手く説明できないのですが。
目立たない供給を見つけ、ないし作り上げる喜びと、
大きなジャンルに巻き込まれていく喜びはやはり別物で、違う楽しみがあるのです。
小川を跳ねるのと海で波を被るのが別物であるように。

そして、もう一つ。
東方に限らず少女達の物語を体験した少年少女は、
艦これの時点では成人を迎えています。
けいおん!を起点にしても、既に4年が経っていました。
東方全盛期において同じ「永遠の少女」だった人々が、
色々あって大人になった所に同じ「大人」を描いた艦これが現れた形になります。
艦これでは成人女性同士の組み合わせに絶大な人気があるのですが、
これは以前の百合ジャンルでは見られなかった現象です。

一方少年だった人々も色々あって大人になり、
同年代の「大人の女性」との距離が近くなりました。
10年前だったら先述の艦船達も、少女として描かれていたかもしれません。
ただの流行り廃りと言ってしまえばそれまでですが、
しかし東方から艦これへ、少女 から女性への移り変わりは、
ある意味でオタクである僕達私達がちゃんと歳をとれた、 という話だとも思えます。
…牽強付会ですよ、うん。

一応書いておくと、艦これは別に大人の女性ばかりのゲームではなく
小、中学生位のキャラも大量に登場します。
むしろ人数を見れば少女達のほうが多い位です。
ただ、 戦力の主軸になりやすい戦艦や空母が
大学生から上くらいに描かれているという話で。

組み合わせ人気も様々。
大人~大学生の間
大学生~高校生の間
高校生~中学生の間
中学生~小学生の間
キャラの見た目は主にこの四グループに分かれますが、
それぞれに人気の組み合わせがあり、またグループを跨ぐ組み合わせも。
更にここでも、男女で組み合わせ人気に違いが発生しているようです。

ちょっと人気に陰りが…と思われていた所に、
五輪銀メダリストや知る人ぞ知る実力派フィギュアスケーターを投入するという
予想の斜め上で突っ切って大当たりを果たし、
更にはシステムの一新にも無事成功。
ミッドウェーは越えた…と思います。ここから何処まで行けるでしょうか?

海の向こうから、そして四次元から来たもの

2018年8月30日木曜日

百合ジャンルの歴史 その1

序論はこちら

第一章 はじめに天王星と海王星があった

・美少女戦士セーラームーンS(94)

大体あのお二方のせい

日曜五時、小中学生を狙って社会現象までになったアニメで
同性愛者であるという言明「だけ」はしていないものの
二人だけのどう見ても…という描写を地上波でこれでもかと重ねた(Sだけに)

セーラーウラヌス天王はるかと
セーラーネプチューン海王みちる
二人は世界を作り変えた絶対的な力です。

勿論これ以前にも同性愛描写を含む作品はありましたし、
また百合妄想やその具体化である二次創作も存在していたのですが。1
地上波、しかも日曜五時という幼稚園児や小中学生が見ている時間帯で
ギリギリを攻めて大当たりしたのはこの作品が初めてです。

今日では想像し難い絶対的な人気があった地上波のテレビで、
(後には日本に限らず、世界全てに対して)
後に百合として理解されるものが白昼堂々と描かれる。
アニメの力が世界を吹き飛ばした一つの具体例だ、とさえ言っていいでしょう。

この前後で全てが変わりました。
アニメ、漫画に限らず、女性同士の同性愛を描いていい、描けば当たる!
という確信が視聴者2と製作者に刻み込まれたのです。
これ以後、製作側がどこかしらに同性愛を匂わすのが珍しくなくなり、
見る側も女性同士の間柄に特別なものを探っていいんだ、と思うようになりました。

この威力は今日においても一切衰えておらず、
20年以上経った今も高品質な二次創作が数多く作られていますし、
2016末には世界一スケートの上手い(ちょっと腐った) ロシアの女の子が
微に入った再現を決めつつ氷上でコスプレして話題になりました。

第二章 百合というかレズというか、そんな怒涛の何か

副題をつけるなら、セーラームーンSと元祖百合ラノベの間に

この後更に限界を攻めた
・カードキャプターさくら(96、アニメ98)
・少女革命ウテナ(97) 等の大当たりもあり、
女性同性愛は特にサブカルチャー3においてあっという間に一定の地位を得ました。
というより破壊力で既成事実として世界に割り込んだ、
と書いた方が正確かもしれません。

大ヒットした
・新世紀エヴァンゲリオン(95)等でもレズビアンが登場していますが、
それ自体は特に話題にもならなかったのを覚えています。
だって今でもあの二人に比べれば大体何だってぬるいし…

またこの頃男性向け18禁ゲームでもレズを匂わせたり、
あるいは直接に描いた作品なども現れます。
有名所だと
・アトラク=ナクア(97)
・kanon(99)とか。

…「男性向け」とは書きましたが女性ユーザーも絶無だった訳ではなく、
例えばこのアトラク=ナクアであるとか、
後述のLeaf、Key、Type-Moon作品(まとめて葉鍵月とも)等を起源とする
女性百合ファンも存在しています。

特に月はfate/stay night(02)で捕まえたファンをEXTRA(10)やgrand order(15)等で
更に増やして現在進行形で熱いジャンルになっていますが、
その中には20年近い経歴を持つ女性ファンもいます。
百合好きも薔薇好きもNL好きもそれ以外も。
…ただ何分「男性向け」なので、当時の敷居はとてつもなく高かったのですが。

一方この時点でも、萌え作品での登場人物同士の繋がりが強くて
「あれ、これ主人公の男いらないんじゃね??」という受取り方をする人々が
ぽつぽつ現れていました。 
セーラームーンであの二人が自分たちの世界を作っていたように。
 ・To Heart(97)以降のLeaf
・ONE ~輝く季節へ~(98)以降のKey
・月姫(00)以降のType-Moonなどは
それはもう激烈に二次創作が流行りましたが、その中には主人公の影が薄いものや、
女性だけで描かれるものもありました。
直接に同性愛を描いたものだけを見れば少数ですが、
友達や姉妹の情愛、先輩後輩関係、ライバルのぶつかり合い、
キャラの魅力を活かしたネタなど、
後に「百合」妄想の起点として認識されていくものも含めれば視野は一気に広がります。
この場合主人公は語り部やツッコミ役に回り、
性別は男でも女でも問題ではなくなります。

これが後日、
男性不在の作品が男性ファンに当たる遠因になっていったと私は考えています。
東方シリーズへは葉鍵月から直接流れた者もいますし
(勿論彼ら全員が百合を志向したわけではない)、
他にも女子校もの、日常系、女性主役の戦闘ものなど…

そして二次創作は二次創作を生むものです。
単純に面白かったり強烈なネタだったりすれば他の作者や読者もそれに続いていきます。
一度生まれたものは何度でも再生産され、膨らんでいくのです。
その中にはレズネタであったり後に百合として再定義されるネタもありました。
この時点では主に味付けであった百合ネタは、
しかし年月と創作を重ねる毎に、雪だるま式に需要と供給を拡大していきます。

故に私は思うのです。
しばらく後に爆発する事になる、百合ジャンルへの男性人気は
90年代後半には既に胎動していたのではないか、と。

とはいえこの時点では、あの二人から始まる衝撃は、
肉体関係として描かれるものと精神的な繋がりとして描かれるものとには
まだ分化しきっていなかった筈です。
この女性と女性の精神的な繋がりへの、当時の言葉では「萌え」、今だと「貴み」、
私が 「ときめき」と呼んでいる感情は45
しかしある作品をきっかけに具体化するのでした。

第三章 タイが曲がっていてよ

そこにあった花は「百合」6だった

・マリア様がみてる(98)、通称マリみて

元々少女向けに書かれたこの作品、
・主人公が女の子
・重要人物が全て女性(男性も登場はするが影が薄い)
・物語の主軸は恋愛感情ではなく憧れ
・同性愛者は少数。舞台もミッションスクールだし
・「お姉さま7」「ごきげんよう」といった言葉の飛び交う特殊な空間
・男性には縁の遠いコバルト文庫からの出版

なのに男性にも大当たりしたのです。
百合ジャンルの歴史において、小説という読者の限られた媒体
(4年後にアニメ化もされますが大当たりとはいきませんでした)で、
これ程までに絶大な影響を及ぼしたのは現在この「マリア様がみてる」だけです8

ミッションスクールの生徒会という、女性だけの特殊な空間
恋愛感情だけでない、もっと多彩な精神の繋がり
肉体関係は一切無くてもいい

…同性愛とは違う、しかし緊密で繊細な心の繋がりにも、
「百合」の香りが存在するのだという事を探り当て、
ライトノベルとして大ヒットしたのがこの「マリア様がみてる」でした。

親愛、憧憬を中心としつつ、読者にはもっと踏み込んだ関係を妄想させる、
「ソフトな百合」と形容されたこの作品は、後の百合に絶大な影響を及ぼします。
極言すれば 「マリみて」で女性同性愛から「百合」と呼ばれる概念が分化、
確立したと考えてもいいでしょう。

同性がキス以上の肉体関係を匂わせると多くの人々はたじろぐのですが9
「マリみて」 のヒットでそこまでしなくてもよくなります。
性欲、ないし肉体の接触が背景の奥に収まる事で、
書き手、受け手共に「百合」の裾野が一気に広がりました。
極端な例を出せば、視線が合ったとか、同じ空間にいたとか、
たったそれだけの接触でも「百合」のときめきを描ける事がここで判明したわけです。

ただ、今日における「百合」という概念程にははっきりしていませんでしたが、
この言葉で示されるときめきはかなり昔から存在していました。
私が知っている作品だと、
1908年の・赤毛のアンまでは遡れます。
今原作やアニメに触ると主人公アンとその親友ダイアナの間柄に
「百合」を見出す人もいるでしょう。
かくいう私もある日何となく読んでん、え、んんんんっ?! となったりしました。

まあ、二作目以降では大方の予想通りにアンとギルバートがくっつくんですけどね。

第四章 女の子は男の子、男の子は女の子?

昔はネカマって言葉があったんです
今では存在が当たり前になりすぎて名前が消えてしまいましたが

と同時に「マリア様がみてる」などのヒットで、
男性キャラの影が限りなく薄くても男性は食いつく、という事に世間が気付きました。
セーラームーンにはとても目立ちかつ話にも大きく関わる
タキシード仮面さま10がいたのですが、彼のポジションは別に無くても良かったわけです。

ある高校における個性的な女子高生達の生活を4コマにし、
・特定の主人公がいない
・登場人物の殆どが女性
・波乱とかも特に起こらない
という、後に「日常系」と呼ばれるジャンルの嚆矢となった
・あずまんが大王15(99)11

男性ファンの比率が多いシリーズにおいて女性主人公の一人、
アイビス・ダグラスの人間関係がほぼ女性だけで完結するという大冒険をやらかし、
しかも好評を博した
・第二次スーパーロボット大戦α(02)

後に絶対的な巨大ジャンルとなる、「幻想郷」と呼ばれる不思議な世界を舞台とした
登場人物が全員(見た目は)少女12の同人ゲーム、東方projectのWin版第一作
・東方紅魔郷(02)
その外伝であり、音楽と僅かなテキストと二人の少女だけで展開される13
近未来SF秘封倶楽部シリーズの第一作
・蓮台野夜行(03)

業界初の百合専門誌となり、後継の「百合姫」が今日も百合人気を支えている雑誌
・百合姉妹(03)の刊行

等々、女性だけで完結する物語が男性の間でも着々と当たり始めていきます。

また様々な作品で、女性が二人もいれば百合妄想に走る者も現れていきます。
例えば女子だけの学級に男の子の先生が赴任する
・魔法先生ネギま(03)
で女子同士の間柄に百合を見出す男性は珍しくありませんでした。

この妄想は801に似て…いるとも言い切れません。
00年代前半頃から、ラグナロクオンライン(02)等の色々なMMOが流行り始めますが、
そこで女性を演じる男性もかなりいました。
おそらく昔も今も、男を演じる女性よりも女を演じる男性の方が有意に多い筈です。
更には現在、女性キャラのアイコンでtwitterしてる男性とかはそれこそ無数にいます。

実の所、女性キャラの目線で物語に入っていくのに苦労しない男性は多いです。
・アルプスの少女ハイジ(74)
で主人公ハイジや車椅子のクララとかに共感する男の子もいたでしょうし、あるいは
・スレイヤーズ(89)で主人公の少女リナ・インバースの詠唱を真似した少年も
たくさんいました。

とても乱暴な言い方をすれば、
男性向け作品で描かれる女性キャラと、
女性向け作品で描かれる男性キャラだと、
前者の方が男性に近いし共感もされる時代が長く続いてきました141516
訳が分からないかもしれませんが、そういうものだと思って下さい。

それを踏まえて、登場人物ほぼ全てが女性で、少年漫画みたいな展開をしていく作品が
(最初は主に男性を目標として)作られ、多数ヒットしていくのですが…

これらの作品が少年漫画由来のBL妄想を得意とする女性にも当たるという、
すごくややこしい現象が後で発生したりします。

一方、傍観者や語り部として物語を眺める男性も勿論います。
自身の延長としての女性キャラによる百合と、
語り部として女性キャラ同士の間柄を眺める百合は、
90年代末には既に両方存在していました。
どちらが多いのか、また以後増えていくのかまでは分かりませんが。


2018年8月29日水曜日

百合ジャンルの歴史 序

序章 ジャンル表と元データ、及び論の概説

・ジャンル表
「ある程度大きなジャンル」の表です。
アニメ化等の爆発点のあるジャンルはそちらも併記しています。
特筆に値する事項は太字にしました。
94 美少女戦士セーラームーンS
96 カードキャプターさくら
97 少女革命ウテナ
98 マリア様がみてる カードキャプターさくら(アニメ)
02 東方紅魔郷
03 百合姉妹(雑誌) 蓮台野夜行(秘封倶楽部シリーズ)
04 東方永夜抄 ふたりはプリキュア 魔法少女リリカルなのは 舞-hime
   マリみて(アニメ) ひだまりスケッチ らき☆すた
05 THE IDOLM@STER
06 ひだまりスケッチ(アニメ) 咲-Saki
07 ストライクウィッチーズ らき☆すた(アニメ) 初音ミク(ボーカロイド)
   けいおん! Pixiv開設
08 ゆるゆり Twitter日本上陸
09 けいおん!(アニメ)  進撃の巨人 咲-Saki-(アニメ)
10 ラブライブ!
11 ゆるゆり(アニメ) 魔法少女まどか☆マギカ アイマス(アニメ)
   THE IDOLM@STER CINDERELLA GIRLS(通称デレマス)
12 ガールズ&パンツァー アイカツ!
13 ラブライブ!(アニメ、ゲーム) 進撃の巨人(アニメ) 艦隊これくしょん -艦これ
   RWBY アイドルマスターミリオンライブ!
14 アナと雪の女王
15 デレマス(アニメ) ガルパン(映画) Fate/Grand Order RWBY(日本語訳)
16 ラブライブ!サンシャイン!!
17 けものフレンズ(アニメ)

続けて百合需要もある作品だったり、画期的な作品だったり、
大きな島ではないけれど…だったり
こちらはあれもこれもすると収拾つかなくなりそうですが、
好きに書き足すのも一興でしょう。
95 新世紀エヴァンゲリオン
97 Leaf&Key作品(To Heartがこの年) アトラク=ナクア
99 あずまんが大王
00 月姫
02 ポケットモンスターRSE あずまんが大王(アニメ) fate/stay night
   ひぐらしのなく頃に 第二次スーパーロボット大戦α
03 カレイドスター 魔法先生ネギま! ヤミと帽子と本の旅人 涼宮ハルヒの憂鬱
04 神無月の巫女 アカイイト
06 その花びらにくちづけを ポケットモンスターDPt 涼宮ハルヒの憂鬱(アニメ)
07 とある科学の超電磁砲
08 とあるシリーズ(アニメ) マクロスF
10 fate/EXTRA プリティーリズム
11 僕は友達が少ない(アニメ) 桜Trick ご注文はうさぎですか?
12 悪魔のリドル キルミーベイベー
13 キルラキル 響け!ユーフォニアム マイリトルポニー(日本でのアニメ化)
14 桜Trick(アニメ) 悪魔のリドル(アニメ) ごちうさ(アニメ)
   響け!ユーフォニアム(アニメ) プリパラ グランブルーファンタジー
   結城友奈は勇者である クロスアンジュ
15 BanG_Dream! がっこうぐらし!
17 リトルウィッチアカデミア(新アニメ)
18 ポプテピピック Vtuber

・論の概説
ここから更に限界まで個別作品への言及を減らし、起点と巨大ジャンルだけを記すと
セーラームーンS(94)
マリア様がみてる(98)
東方シリーズ(02、永夜抄04) 
けいおん!(07、アニメ09)
ラブライブ! 及びサンシャイン!!(アニメ、ゲーム13)
艦隊これくしょん -艦これ-(13)
アイドルマスターシンデレラガールズ(通称デレマス)(アニメ15)
Fate/Grand order(15)
まで絞れる、という見方をしていきます。
ここではもう少し色々な作品に言及しつつ、百合ジャンルの歴史を考察していきます。
縦糸となる時系列は以下のような感じに。

togetter用に2Tweetで無理やりまとめたのに手を加えると

セラムンS(04)が女性同性愛を世界に打ち込む
マリみて(98)で「百合」萌えがレズから分化
04年に大量の供給。東方全盛期へ
pixiv開設(07)、一次、二次創作急増
twitter日本上陸(08)、ファンの交流が可視化
けいおんアニメ化(09)

まどか☆マギカ(11)で百合ファンの男女が邂逅
ラブライブアニメ化(13)
艦これ抜錨(13)、第二の巨大百合ジャンル成立
RWBY(13)、アナ雪(14)等海外発のジャンル成立
デレマスアニメ化(15)
けものフレンズ(17)
Vtuber?(18)

こんな感じでした。もう少し詳しく書くと、

セーラームーンS(94)が女性同性愛を世の中に打ち込む
細々とだが、女性キャラが多数登場する作品でキャラ同士の繋がりを原作以外の形で妄想する者が現れる。
これを「百合妄想」と命名。この妄想は二次創作等で具体化される事もあるし、
当人の脳内に収まる事もある。
ただし、百合とレズはこの時点では未分化
マリア様がみてる(98)で「百合」が具体化
憧憬や情愛といった繋がりも「萌え」として認識される
男性不在の作品が男性にも当たり始め、平行して百合妄想も加速
04年、東方永夜抄、プリキュア、なのは、舞-hime、ひだまりスケッチ等、
大量の供給が入る。戦友、ライバルといった戦いを巡る間柄や、
何気ない日々の生活におけるちょっとした幸せも
百合妄想の起源として強く意識され始める
萃夢想(04)、花映塚(05)、風神録(07)を経て東方シリーズが全盛期に入り、
史上初の 巨大百合ジャンル成立。この他にも更に多くの作品が続く
Pixiv開設(07)、一次百合創作が爆発的に増加
この頃から男性も女性の百合ファンの存在を認識しはじめる
逆に言えばそれ以前は、男性はいわゆる「萌え作品1」に女性は来ないと思っていた 
Twitter日本上陸(08)、百合ファンの相互交流が可視化
特に匿名掲示板で男を演じていた女性がおおっぴらに女性として活動するようになる
けいおん!(07)(アニメ09)がアニメ化で深夜の枠を越える大ヒット
特に現役女子高生の強烈な支持を集め、その中には百合にハマっていく人々も
まどか☆マギカ(11)が大爆発し、百合ファンの男女が本格的に邂逅
この辺りから男性と女性が互いの微妙なすれ違いを意識していく
アイカツ!(12)稼働
アイドルマスター(元祖05)シリーズを起点とする二次元アイドルブームが
幼稚園児や小学生にも一気に広がる。
以後、ラブライブやデレマス人気の土台にも。
ラブライブ(10)が漫画化、ライブでの成功(11)を経て
アニメ、ゲーム化(13)で大成
こちらも女子中高生を直撃、特に女性にとって第二の巨大百合ジャンルに
艦これ抜錨(13末、ヒットは14以降)、
男女を巻き込む第二の巨大百合ジャンル成立
RWBY(13)、アナ雪(14)等、海外発の百合ジャンルが発生
デレマスアニメ化(15) これも二次元アイドルブームの立役者で、
百合ジャンルとしても特に女性に大当たり
Fate/Grand Order(稼働15)が17年前後に一大ジャンルに
けものフレンズ(17)がまさかの大当たり&悲劇の失速
艦これ第二期抜錨成功(18)、ポプテピピック(アニメ18)の襲撃
Vtuber(17末。にじさんじが18)どうなるかなー

という論建てになります。
一方の横糸は、

・百合ファンは男女で辿った道が違うし合流もしてない
 また当たった作品や組み合わせ(カップリングとも)が男女で異なったりも
・女性を演じてみたりなってみたりしたい男性は結構いて、百合人気とも関係有り
 一方傍観者としてキャラ同士の間柄を眺めたい人々も男女問わずいる
・男性は女性が萌え作品を支持すると思ってなかった
 というより今でもアイマスやラブライブの女性人気を認識してない男性がいる
・しかし現在の百合人気は女性によるものが大きい。
 特に二次創作供給の中心は2013年前後で男性から女性に。
・百合人気は基本的に原作外の百合妄想で成立、発展
 ゆるゆり、ポプテピピック等、狙った作品もいくつか当たったが大当たりはまだ

これらを論点としていくので、意識しておくと読みやすいかと。

女性における百合人気沸騰に関しても(当事者ではありえないなりに)論じています。
・女性の百合ファンを定着させた作品は何か
・またBLからGLに移行、ないし平行している女性も少なくないが、そのきっかけは 
・時に男女で人気の組み合わせが違ったりする理由は 

といった論点に触れていきます。これに関してはpixivで当たっている作品、具体的には
けいおん!(アニメ09)
魔法少女まどか☆マギカ(11)
進撃の巨人(アニメ13)
ラブライブ!(アニメ、ゲーム13)
艦隊これくしょん(13) 
アイドルマスターシンデレラガールズ(アニメ15)
ガールズ&パンツァー劇場版(15)
Fate/Grand Order(15) 等が大きな役割を果たしたと推測しています。 

起点はけいおん!
それからまどか☆マギカ、進撃の巨人、ラブライブ!でドカッと入っているので
これを元に考察しました。
先に触りだけ書いてしまうと、

女の子ってのはやりたいことをやりたいようにやればそれが一番「格好いい」んだ、
と明示したのがけいおん! で、
以後の作品はこれを踏まえて制作、受容されたんじゃないかなーと論じたりしています。
結果、女性だけで少年漫画みたいな展開をしていく作品が増えて、
BLからGLに移行していく方々も増えたのでは、とも。

・Pixivによるデータ、及びそこから見えるもの
もしpixivアカウントを持っているなら「百合 1000 -松」 (18歳未満なら-R18な)で
古い順検索するとジャンルの流転と百合人気の加速が目で見えて面白いので是非。

2018年08月28日(2/3が経過。18のデータに×1.5すると最終的な数字が出る?)
におけるR18込のデータになります。
数字はその年の作品数で、前年比の増加を示します。
その時点における2007からの累計ではないのでご注意を。
このデータからざっと読み取れるものとして、

・ユーザー全体は16年までずっと増加しているが17年で謎の大幅減少2
・一方百合が全体に占める割合は未だ2%に達していないが確実に増加中
・11年、13年、17年に全体比で有意な百合人気の増加が見える
・百合人気の加速は特定作品の、特に女性へのヒットと密接にリンクしている
 11年のまどか☆マギカ、13-14年3の進撃の巨人、艦これ、ラブライブ
 15-16年のアイドルマスターシンデレラガールズ(デレマス)
 ガールズ&パンツァー劇場版
 17年のFate/Grand Order(Fgo) 等
・特にまどか☆マギカと進撃の巨人の強烈な爆発力が目を引く
 一方ラブライブが百合人気の最大派閥になった原因は持続力4
 東方の粘り強さもまだまだ続きそう
・アニメ、特に地上波の影響力はやはり絶大
 まどか、進撃、ラブライブ、デレマスは地上波で人気が沸騰している
・一方艦これ、Fgoとブラウザゲーム、スマホゲームも強い
 ラブライブとデレマスはアニメとの相乗効果も大きい
・艦これは一度アニメブーストに失敗したがFgoはアニメでもう一撃ありそう
 まどかもスマホゲーのマギレコで再加速するかも
 艦これのアニメ作り直しもありうるか
・一次創作は途切れなく増加中。ただし18年で一旦ピークアウトしそう

などが見えてきます。人によっては更に色々なものが見えるかもしれません。
小さな数字の中にも注目に値するものがあるので探してみよう!

ちなみにR18を引いた際のページ数5は現在97 R-18込みだと現在111
R-18抜きだと1-22まで6年、ほぼ倍の23-61は3年
R-18込みでは1-24まで6年、倍の25-72は3年
いずれも2013以降の強烈な加速と、R-18の割合がほぼ一定なのが見えます。

さて、ここから本論に入ります。
先述のようにpixiv以前は定量化する為のデータが取れず、
記憶頼りで歴史を辿っていく事になりますがご容赦を!

こちらが本論です!

2018年8月28日火曜日

百合ジャンルの歴史 はじめに

この記事は「#百合ジャンルの歴史」と題した連続ツイートを
https://togetter.com/li/1176970
でまとめ、更に
https://kawaikunaimono.booth.pm/items/721102
として紙の同人誌にもしたものを(おかげさまで紙は完売。pdf販売中)
改めてブログ用に改編したものです。

多分一番読みやすいのはpdfでしょうが、
togetterよりはこっちの方が読みやすい、といいなぁ。

2/6日に刊行されたダ・ヴィンチ2018/3月号も百合の歴史をまとめており、
あちらも当事者の方々を多く交えた相当な労作なのですが、
タイミングは私の方が三ヶ月ほど早かったです(ドヤッ)。
更にはこちら独自の視点もいくつか提示できています。
「あんたの記事は日本一かもしれない、だが速さは日本じゃあ二番目だ」
なんて本当に言える日が来ようとは。
(私が完全劣化だったらどうしようかと思ってました。そうじゃなくて良かったです)

さて、はじめに。
この記事はあくまで「百合ジャンルの歴史」です。
「百合人気の歴史」と言い換えられますが、
「百合作品の歴史」そのものではない、という事を言明しておきます。
全く重ならない訳ではありませんが…

ここでは多数の二次創作を引き起こした作品を「百合ジャンル」と定義しています。
その上で、ある程度大きな「百合ジャンル」の移り変わりを歴史としてまとめつつ、
ちょっと考察も付けてみました。

具体的な方法として、pixivで「百合 1000 -松1」検索すると1000user越えの作品、
つまり大きな人気を集めた二次創作の数をある程度把握出来るので、
数字が大きい作品をある程度大きな「百合ジャンル」と定義、これを軸に考察しています。
…なので2007年のpixiv開設以前に関しては完全に記憶頼り。また二次創作がpixivに引っかかりにくい作品、
具体的には人気の中心が小学生未満なアイカツやプリパラ等に関する考察はどうしても推測になります。

他に幾つか注意書きとして、
・基本的に男視点からの考察になります。
 先に論点を一つ書くと、実は男性と女性は別々に百合を受容し、発展させています。
 そして私は男で女性側の当事者ではありえませんでした。
・実際に見ていない作品のほうが多いです。
・三次元には触れません。
 具体的にはアルファベット三文字のアイドルグループとかは完全に専門外なので。
・抜けは勘弁してください。特に2007年以前は。

その上で「百合ジャンル」、
及び今日の百合人気が立ち上がっていく歴史と、
更に画期となった作品の紹介、解説なども以下の記事でまとめていきます。

おそらく日本、更に世界で最初の歴史編纂であり。
まだ世間に認識されていない視点もいくつか提供できています。
出来が荒い叩き台である事は端から承知、様々な意見が出てくる事こそが私の望みです。

それでは、次回から本論に入ります!