2018年10月24日水曜日

2018-19シーズンにおける新採点まとめ

・ジャンプ基礎点が下方修正。特に高難度四回転で大きく減少
・GOEの幅が±3から±5に。補正は一律+1で+10%。コレオのみ+18%
・1.1倍の後半ボーナスが入るのはSP最後の一つ、FS最後の三つのみ
・二回飛べる四回転は一種のみ。実質もう一種は三回転限定に
・コレオの基礎点、GOE幅が上昇
・SPでの単独ジャンプ前のステップが不要に
・男子のみ演技時間が4:30→4:00に
・男子のみFSのジャンプが8→7に

以上が採点改正の要点です。
では一つ一つについてもう少し細かく。

・ジャンプ基礎点が下方修正
4A15.0→12.5
4Lz13.6→11.5
4F12.3→11.0
4Lo12.0→10.5
この四つは実際に飛ぶ事を想定しておらずに
慌ててごっそり引いたようにも。
4S10.4→9.7
4T10.3→9.5
ちょっとだけ4Sと4Tの差が広がりました。
3A8.5→8.0
3Lz6.0→5.9
3F5.3
3Lo5.1→4.9
3S4.4→4.3
3T4.3→4.2
2A3.3
3Aも大きく減りましたが
それでもなお3Lzとの差はあります。
男子は二つ飛ぶと基礎点だけで4.2に。

女子の3A挑戦は減るかも…と思ってましたが
そうでもない模様。

・GOEの幅が±3から±5に。補正は一律+1で+10%。コレオのみ+18%
GOEの採点基準が7段階から11段階になり、
点数幅そのものも大きくなりました。特に高難度ジャンプで。

例えば4Lzの場合、
9.60~13.6~16.6
だったのが
5.75~11.5~17.25
になります。
GOE5を取れた場合は旧採点より出ますが
転倒だと問答無用で-5、ごっそり引かれて3Lz以下に

これは少し崩れた4T(9点前後)と
転倒しても回りきった4Lz(転倒-1含め8.6)の点数が
殆ど同じだったので分かる改正です。
4Lz、4F、4Loは転んでも回りきれば十分な点が出てしまう状態でした。

更にジャンプGOEの認定要件として
1 高さおよび距離が非常に良い
2 踏切および着氷が良い
3 開始から終了まで無駄な力が全く無い
更にこれらをすべて満たした場合のみ
4 ジャンプの前にステップ,予想外または創造的な入り方
5 踏切から着氷までの身体の姿勢が非常に良い
6 要素が音楽に合っている
が認定されると定められました。一つでGOE1になるとの事。
ただ、具体的にどれだけ123を満たせば
456も評価基準になるのかはまだ手探りの状況です。

一方で「空中姿勢の変化」や「ディレイ」はなくなったので
例えば手を上げてのジャンプ、通称タノジャンプは
それだけではGOEを算出しない事になりました。
でも美しいタノジャンプに定評があった選手達は問答無用で今も飛んでます。

・1.1倍の後半ボーナスが入るのはSP最後の一つ、FS最後の三つのみ
特にジャンプを全部後半に回す女子が登場し
プログラムがいびつになっていた状況に待ったをかける改正です。

このSP最後一つ、FS最後三つというのがなかなかの曲者で
コンボに後半ボーナスを入れようとすると最後にするしかなく
リカバリーが効かなくなります。

例えば前半3A、後半4S3T、4Tの構成なら
これまでは4Sで転倒しても4T3Tを飛べれば傷は浅くなりましたが
現行ルールだと3A/4T、4S3Tの構成にしないと+3Tのボーナスは無し。

なので後半クワドコンボは一発勝負になります。
しかも転倒してしまうとコンボが入らず基礎点3/4かつGOE-5となるので
極めてハイリスクになりました。
おまけに後半ボーナスはGOEに反映されないのでリターンも減るという

・二回飛べる四回転は一種のみ。実質もう一種は三回転限定に
今までは4T二つ、4S二つ、3A一つの構成が出来たのですが
以後これはできなくなります。

FSで二回飛んでいいジャンプは二種類のままなので
もう一種類は必然的に三回転のどれか、という事になります。
男子は単純に点数の高い3A二つを選択する…とも思っていましたが
3Lz二つ、3F二つで挑んでいる選手も現在かなりいます。
実の所3Aを他の三回転と同じように飛べる人って限られてますし。

結果的に、特に男子では
四回転を飛べてかつ3Aが得意な選手がこの改正の恩恵を受ける事になります。
3Aの重要性がこれまで以上に増したと考えてもいいでしょう。

・コレオの基礎点、GOE幅が上昇
基礎点が3.0→4.0
GOE5だと4.1→5.5に

GOE0とGOE5の点差は1.1→1.5になります。
実の所GOEマイナスのコレオってA級大会で見た事ないので
そんなに大した改正ではないです、点数だけ見れば
ジャンプの基礎点が減った分ちょっとだけ比重は増えましたが

とはいえコレオはフィギュアの華
5を取れたであろうミーシャ・ジーが引退した今
誰が最初に最高点を取るか、皆が注目しています

・SPでの単独ジャンプ前のステップが不要に
今まではこのコネクティングステップとも呼ばれるものが必要で、
無しだとGOEが大きく引かれる為に、
ステップからの四回転が出来ないとSP2クワドの強みが薄かったのですが
改正で必須ではなくなりました
GOE要件その4を満たすので利点は残ってますが。

・男子のみ演技時間が4:30→4:00に
・男子のみFSのジャンプが8→7に
これは単純な時間短縮、
及びそれに伴う救済措置
更には得点におけるジャンプの比率減少も兼ねているのだそうです。

が、最後のジャンプにかかる時間はせいぜい5秒
なのに30秒も縮まってしまい
要素の間で息を整える時間がバッサリ削られた為に
非常に体力への負担が大きくなっています。

またこれのせいで代名詞として知られていた技、
例えば宇野昌磨のクリムキンイーグル、
ジェイソン・ブラウンのスパイラルなどを入れる時間が無くなってしまい
総じてファンの間では不満の大きい改正です。
4:15とかに出来ないもんですかね…?

具体的にどんな採点になるのか分からないので
あくまで個人的にですが
要点をまとめてみると

男子だと3Aが上手いクワドジャンパーが有利に
高難度ジャンプはGOEを取れないと相対的に弱体化、
かつ転倒でも回りきれば得点源とはいかなくなった
ジャンプ以外の得点はそんなに増えていないものの、
相対的には比重が大きくなった
TESの天井が低くなるのでPCSの比率が増大

といった所でしょうか。
まあ元々、トップクラスの選手は全部出来るオールインワンが多かったので
そんなに影響はしなさそうです。
3A苦手で多種クワド持ち、ただしGOEは多くなかったネイサン・チェンが
直撃を受けるかとも思ってましたが
今季で3A急成長、更にPCSもガッチリ取って対応してきました。

とはいえ、繰り返しになりますが
具体的にどんな採点がされるのかは未だ不透明です
今季は特にエッジエラーや回転不足の判定がキツくなっている模様で
何人かが大きく煽りを受けています。

そして、最後にPCSに関して
転倒などの大きなエラーが一つあった場合は10を出せない
二つ以上あった場合はSS、TR、COに9.5、PE、INに9を出せない
と規定されました。

つまりPCSでごっそり点を取れるトップクラスの選手達でも
二つ転倒すると絶対にSP46.5、FS93を越えられなくなるので
天上の戦いにおいては決定的な致命傷になります。
まあ、元々二つ以上転倒した選手に
そんな派手なPCSが出たケースはそんなになかったのですが。

さて、しかしどうなるでしょう
これから実際の演技と照らし合わせて
採点基準を修正しないといけないので

ぶっちゃければやってみないと分かりません。

2018年10月23日火曜日

2016-17シーズンから平昌五輪を挟んで現在までの男子フィギュアの流れ

ボーヤン・ジンが4Lzを着氷して始まった新次元クワド時代。
その一つの締めくくりとなったヘルシンキ世界選手権は、
4Lo4T4Sと他要素を完璧に揃えた羽生結弦が制覇。
4F4Lo4Tと他全部完璧(ただしgoeでちょっと羽生さんに及ばず)の宇野昌磨が二位。
4Lz4T4Sと他の要素普通以上のボーヤン・ジンが三位。
という結果に。

しかし4T4S他要素完璧のハビエル・フェルナンデスの威力は変わらず、
更に4Lz4F4T4Sとステップ完璧スピン普通以上のネイサン・チェン、
4T他要素完璧、ただし4Lz不安定のミハイル・コリヤダらが彼らを猛追。
4Lz4F4T4Sのヴィンセント・ジョウ、
4Lz4T滑り上手いドミトリー・アリエフらも続いて
平昌五輪への争いは混沌としていました。

その一方で様々な選手達が自分達の方法で少しでも上を狙った時代でもあります。
一時期飛んだ4Sを捨て4Tで最後の五輪に挑んだパトリック・チャン、
4Tと3Aと忙しない脚さばきで世界四位に食い込んだオレクシイ・ビチェンコ、
鉄板の4Tと3Aの威力でGPF出場、四位を掴んだセルゲイ・ヴォロノフ、
五輪で4Sを取り戻し本来の総合力で世界選手権に戻ってきたミハル・ブレジナ、
4Tを安定させスピンを急激に伸ばして五輪を勝ち取ったキーガン・メッシングら、
一種の四回転を軸に世界と渡り合うベテラン。

4Tや4Lz<も決めたけれども最終的には四回転抜きを選び
PCSで五輪に華を咲かせたアダム・リッポン、
4Tは間に合わなかったものの他完璧かつ異次元のジェイソン・ブラウン、
4Tに見切りをつけてステップとコレオに全てを賭けたミーシャ・ジー、
最初からクワドに目もくれずスケーティングで勝負したヨリック・ヘンドリックスら、
クワドなしで多種クワド選手達よりも高順位に入った選手。

4T4S4Lzと荒々しい勢いで五輪まで後一歩に迫ったアレクサンドル・サマリン、
4T4Sと総合力、ただし安定を欠くも五輪で揃えたダニエル・サモーヒンら、
多種クワドの威力で一気に世界に食い込む若手。

本当に多士済々といった感じで、
誰が五輪を制覇し誰が入賞するのか、
全然読めやしなかったのが平昌五輪でした。

結果的には怪我で4Loを欠いた羽生結弦が4T4S二つづつ(一つ乱れ)で優勝。
4Lo転倒も4Fと4T二つを降りた宇野昌磨が二位。
4Sが一つ2Sで吹き飛ぶも4T4S一つづつのフェルナンデスが三位に。
ただしネイサン・チェンが4T二つ4F二つ4S4Lz合計六クワドで
FS最高得点をもぎ取っています。

この後の世界選手権では、
五輪の無念を晴らしたネイサン・チェンがSPFSを揃えて優勝。
怪我しつつ強行出場した宇野昌磨が驚異の二位。
FSで上手くいかずも基礎技術で押し切ったミハイル・コリヤダが三位に。
一方で四回転一種(4T)でオレクシイ・ビチェンコが四位に入っています。

これで一つの区切りが付き、
五輪以前から公言されていた採点改正が行われて
初のシーズンとなるのが現在です。

ジャンプ、特に四回転の基礎点が下がる一方、
goeの幅が±3から±5となって+5を取れれば
旧採点以上の点が出せるようになりました。

また男子はFSのジャンプが8→7となり、
時間も4:30→4:00に短縮。
最後のジャンプで2Aとかを飛んでた選手は有利になりますが、
一方で時間短縮は体力への負担が極めて大きい模様です。

更にFSにおいて、
二回飛べる四回転は一種類だけになりました。
例えば4T二つ4S二つという構成はできなくなります。
二回飛ぶジャンプの一つは三回転になるので、
皆3A二つで行く…と思っていましたがそうでもない様子。

総じて高難度ジャンプの基礎点に依存する戦略は不利になり、
スピンやステップのgoeが重要性を増す形になります。
その上でトップを争う為には多種クワドを高いgoeで飛べ、と。

新しい採点基準に対する選手達の戦略は様々で、
4Loや4Lzを4Sに変更している選手やクワドを減らす選手がいる一方、
知った事かと言わんばかりにクワドマシマシで戦っている選手もいます。

元々選手達からすれば
やりたい事、目指すべき姿があって
その上でどうやって点を取るの勝負となっていたので
今の所、このルール変更で根本的にやり方を変えた選手はいません。
回転不足やエッジエラーの厳格化で苦戦している選手もいますが。

そしてGPS第一戦スケートアメリカが終わった時点で
新クワドを投入して飛躍する若手がバンバン出ていたり、
31歳の選手が4Loに挑戦したりと

やはりというか
限界を突き抜けようとする選手達の熱い闘志は
結局の所全く変わっていません。

五輪が終わってなお戦い続けるベテラン達
2022年の北京五輪を目指す中軸世代達
その更に先を見据える若手達が
今しのぎを削っています。

今季の世界選手権は日本、さいたまスーパーアリーナ。
総合力を要求するルールの下で
誰がどんな戦略で抜け出るのか。

今季も決着が付くまで
目を離せそうにありません。