なのですが、いきなり白状してしまうと。
実の所この儀式が確立したのは四世紀のエルサレムなのだそうです。ジョン・フェンウィック(John R. K. Fenwick)氏によれば、エルサレムの聖キュリロスという神学者1が同時代の聖バシレイオス2と同じ原型を使って370年にこの儀式を作成したのだとか3。そしてこの時代のエルサレム教会は主の兄弟ヤコブが建てた教会とは直接には繋がっていません。
更に聖餐(ユーカリストとも。キリストの体としてパンとワインを食べる事)が日曜朝の礼拝に組み込まれたのは二世紀のユスティノス4以降であり、それ以前のパンとワインは通常の食事における儀式を介して食べられていたのだそうです5。であるならば、この『ヤコブによる神の儀式』」におけるパンとワインをキリストの肉と血として食べるという流れは、 62年に死んだとされるヤコブ等による教会には存在し得なかった事に…6
ジョン・ウィルキンソン(John Wilkinson)氏によれば、かつて最初期のユダヤ人キリスト教徒が作った箇所として、
トリサギオン(日本正教会訳だと聖三祝文)の祈り、
奉献の祈り(人間が神へ犠牲などを捧げる際の祈り)、
後悔の祈り(自分が罪人である、あるいは罪を犯した事への祈り)、
ユダヤ教と並行する接合とEctenes の祈り(~に代わって、で始まる人々や物に対する祈りで、「主に懇願しよう」で締める78。ここでは二つまとめて懇願の祈りと呼びます)の5つがユダヤ人キリスト教徒による祈りを保存しているとか9。
他にも 色々と興味深い記述があったり、逆に今日東方正教会による聖体礼儀ではしつこいくらいに書かれる下りが丸々無かったりと、キリスト教の発展を考える上で様々な示唆があるのは確かです。と、いう事で。多くの 方々に謎解きの楽しさを堪能してもらう為に、また単純に私自身の興味の為に、この儀式を日本語に訳してみることにしました。
…ただし私はギリシャ語が出来ないので、この翻訳は英語訳からの孫訳になります。これは浅学をご容赦をとしか言えません。一応英文翻訳は現在進行系でこの儀式を挙行している方々のものを採用させていただいたので、それなりに正確ではある…とは思いたいです。
ちなみにユダヤ人キリスト教徒達が実際にはアラム語で儀式を行っていた場合はひ孫訳という事になります。が、仮にアラム語による原典があったとしてもそれは一文字も残っていないので気にしても仕方ない話ですが。
さて、この翻訳のソースですが。
Christian Classics Ethereal Library というサイトによる翻訳を主に使いました。 https://web.archive.org/web/20080615045105/http://web.ukonline.co.uk/ephrem/lit-james.htm
またこちらも参照しています。CCELによる翻訳で行き詰まった時は時にこちらの身も蓋もない翻訳が役に 立っています。 https://web.archive.org/web/20080513232141/http://web.ukonline.co.uk/ephrem/index02.htm
英国にあるコンスタンティノープル教会、つまりカルケドン系正教会の修道院によるサイトのようです。
ほとんど翻訳が終わってしまったあとに存在に気付いたのですが、 http://www.newadvent.org/fathers/0717.htm
こんなソースもあります。ただしこれはCCELのそれと殆ど内容が一緒です。 http://www.orp.gr/?p=3787
ギリシャ語の.docファイルはここからダウンロードしています。ただしこのギリシャ語も原型とは程遠い、 現在使われている(つまり後世に色々と書き足されている)儀式の次第の模様。
この聖体礼儀そのものに関してはこんな文章も。
神を指すThouおよびその変化系は全て「汝」で。
イエス・キリストを指す大文字のHeおよびその変化系は全て「彼」。
Divineは「神の」で、spiritは「霊」で訳しました。
ちなみに「聖体礼儀」ではなく「神の儀式」としたのは、「聖体礼儀」が誤訳だからです。単語や節回しは日本人の多くが慣れているであろうカトリックやプロテスタントによる翻訳を多分に参考にしましたが、時々日本正教会風の言い回しが出てきたりもします。
あ、それと。 これを翻訳している私は非信徒で、かつ洗礼を受けるつもりは全くない人間です。 教会の都合を無視する事には全くためらいはないので、その辺は悪しからず。
それでは、次回投稿から本文に入ります!
1 313頃-386。エルサレム主教を務めた人物で、アリウス派との闘争で有名です。
2 330頃-379。こちらはカイサリア(当時の小アジアを代表する都市。現トルコのカイセリ)主教を務め、三位一体論の形成、現在の正教会における聖体礼儀(カトリックにおけるミサに相当)の原型構築等の功績を残しています。
3 https://orthodoxwiki.org/Liturgy_of_St._James より。
4 100?-162?。初めてキリスト教にギリシャ哲学を組み込み完全なロゴス(ギリシャ哲学における神が生み出した世界の根本原理)とイエス=キリストを結びつけた神学者です。
5 F・ハーン『新約聖書の礼拝』 p146
6 ただし、一世紀後半から二世紀の間に成立したとされる『ディダケー』14章には、明白に日曜礼拝における聖餐に関する記述があります。一方、この『ディダケー』はユダヤ人キリスト教徒によって書かれたとされる『マタイによる福音書』との共通点を多く持っていますが、福音書においては日曜礼拝に聖餐があったのか否かは不明瞭です。となると日曜礼拝における聖餐の儀式は85年には成立していたとされる『マタイによる福音書』の後から二世紀前半の間のどこかに成立していたのでしょうか。…まぁヤコブ以降なのは間違いないんだろうとは。
7 http://www.finedictionary.com/litany.html より。 8 この儀式では「主に懇願しよう」とか「主に乞い願おう」とかが先に唱えられ、それから祈りが始まっています。
9 逆に言えば、ユダヤ人キリスト教徒はパンとワインをイエス・キリストの血肉とする祈りを成していなかったという話でもありますが。
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